*サブカルチャー 〜ディープなサブカルではなく雑学系で〜

◎目次

新耳袋』第一夜〜第十夜 木原浩勝、中山市朗 

世界を救うショッピングガイド 野村尚克   

『大正時代の身の上相談』 カタログハウス編

本屋の窓からのぞいた{京都} 恵文社一乗寺店 

店員さんがすすめる良品ステーショナリー シリーズ「知・静・遊・具」編集部

京都らしいものの現在 藤田功博・編 

“コワすぎます。リアルすぎます。知る人ぞ知る実話怪談集の決定版”

『新耳袋』第一夜〜第十夜

 木原浩勝、中山市郎  (メディアファクトリー)

 みなさんはコワイ話、好きですか? 私は人一倍コワがりですが、人一倍好奇心も強いので、怪談本にのめりこんで夜に眠れなくなったりと大変です。この怪談集、豪華キャストでドラマ・映画化されて認知度も上がりましたが、私が読み始めたのはちょうど第三夜が発売された頃で、まだ“知る人ぞ知る”書物でした。

 いわゆる“百物語”を本で再現するという意図なので、それぞれ百話の怪談(本当に何か起こるとマズいという事で、敢えて九十九話で終わるように調整されています)が収録されていて、全部合わせると千話にも及ぶ怪談が収められた事になります。収録されているお話は全て、著者が聞き集めたり、一般募集したもので、ネタ元の真偽はともかく一応は全て実話です。

 それにしてもこの本、むちゃくちゃ怖い! 何が怖いといって、無理に怖がらせようとしていない所が怖いのです。著者も述べていますが、こういう本や映画では、余計な演出に凝った結果、逆に怖くなくなってしまう事がよくあります。話者が最後に襲われたりして、「じゃあこの話は誰から聞いたんだよ?」という矛盾が残るものもよく見かけます(映像化された『新耳袋』にもこの傾向はみられます)。

 本書の怪談は、話に起承転結やオチがなかったり、シュールすぎて訳が分からなかったり、お話とも言えないほど短いエピソードだったりしますが、それがかえってリアルです。普通、怪談話をでっち上げるのに、こんな突拍子もない話や、不条理で分かりにくい話は考えつかないだろう、という感じ。

 特にパワフルなのは最初の3巻。著者2人が関西人という事もあって、関西地区の読者にはお馴染みの地名もたくさん出てきます。狐狸に化かされる類いの話も入っていますが、こんな日本昔話みたいな出来事が、日常的な場面で現代にも起こっているとは驚きです。さらに泣ける話、笑える話、不思議な話がたくさん出てきて、怪談にもこれだけ多種多様なバリエーションがあるのかと思わず感心。

 圧巻は第九夜と第十夜。怪談に対して使う賛辞としては少しおかしいですが、ほとんど感動すら覚えます。心霊体験というのはごくパーソナルな、少数の人達が体験するもので、一般社会が関わってくるような出来事では(少なくとも表向きは)ないです。ところが現実には不可解な現象のせいで、新設の事務所が数ヶ月で移転されたり、撮影されたテレビ番組がお蔵入りになったり、挙げ句の果てに某国の書記長(誰の事かは明らかですが)の関係者まで動いたりと、とんでもない事が起こっているわけです。

 ここまでくると、収録された話のほぼ全てが嘘や錯覚であったとしても、ほんの数話分の真実が含まれているなら、もうそれらの現象、この世の不思議を認めざるを得ません。ものすごい本です。ちなみに著者二人は、変わった経歴の持ち主。木原浩勝は、スタジオジブリで宮崎駿作品の制作に携わり、ライター転身後は『空想科学読本』でミリオンセラーを出した人。中山市朗は、放送作家として『爆笑BOOING』(関西のお笑いファンの間ではちょっとした伝説的番組です)等に関わった人。

 宮崎アニメも、若手芸人が活躍するテレビ番組も、学生時代には随分とのめり込んだので、彼ら二人の仕事には、この本に出会うずっと前から接していた事になります。不思議なものです。尚、下のリンクはメディアファクトリーのオリジナル版ですが、角川文庫でも入手できます。個人的には、装丁や紙質、文字色、裏表紙など、オリジナル版の方が恐怖感を高める作りになっていると思います。

“欲しい物を買って社会貢献もできる、一石二鳥のショッピングガイド本”

『世界を救うショッピングガイド』

 野村尚克  (タイトル株式会社)

 書名の通り、購入する事で社会問題の解決や、世界を救う様々な運動の支援に繋がる、「コーズブランド」の商品ガイド。といっても、普段目にしない特殊な商品ばかりが紹介されている訳ではなく、平素から私達が手に取ったりしている商品、「え、これもだったの?」というようなブランドの商品もたくさんあります。

 例えばコーズブランドの代表格であるTHE BODY SHOPをはじめ、LUSH、ネピア、THE NORTH FACE、森永製菓、ソニー、Apple、イオン、ポッカ、Volvic、ロッテといった私達に馴染みの深い企業が扱っている製品もたくさん。著者はコーズブランド・ラボの代表者で、本書の売り上げも一部がアジア・コミュニティ・センター21に寄付されます。小型の薄い本ですから、ぜひ手に入れて興味を持っていただけると幸いです。

 よく知られているのはコーヒー、紅茶に多い「フェアトレード」の製品です。コーヒー豆や茶葉の産地で働く発展途上国の労働者が不当に搾取されないよう、彼らが公正な利益を受け取れる配慮がなされた売買システムで、無印良品などはこの製品も扱っています。私のようなしがないサラリーマンは、大きな事こそできませんが、買い物に少し配慮するだけで社会の役に立てるのなら、協力するのにやぶさかではありません。

“美しい日本語表現と爆笑ものの相談内容。大正時代の読売新聞から身の上相談を再録”

『大正時代の身の上相談』

 カタログハウス編  (ちくま文庫)

 この本、面白すぎます。大正3年から11年までに発行された読売新聞の身の上相談コーナーから抜粋し、テーマごとに分類してコメントを付けたという風変わりな本で、著者名は明記されていません。

 相談の内容は、大正デモクラシーによる自由思想が広まった社会世相を反映してか、今の時代にそのまま通ずるものも少なくありません。その一方で、現代では考えられないような珍奇な相談も寄せられていたりと、読んでいる内に、大正時代の一般市民が思い悩む様子が、ちょっぴりコミカルに、時にペーソスも漂わせつつ浮かんできます。

 曰く、「接吻されて汚れた私」「理髪店で二度も耳を切られた」「植木まで消毒する妻」「娘の求婚者が醜いので断りたい」「養子に行けと手相に出た」「みだらな事ばかり言う夫」「太りすぎて人前に出たくない」等々。あまりにもしょうもない事柄から、人生の左右を決するような選択まで、真剣に投書してくる読者の相談は多岐に渡るも、無責任な立場の読者としては、ついつい笑ってしまいます。

 対する記者は、これに逐一答えてゆくわけですが、この記者が又、今のお悩み相談室の基準からは考えられないくらいの曲者で、単に慰めたり諭したりするだけでなく、時には厳しく叱りつけ、はたまた極論で一喝したり、説教までします。これが面白いのなんの。突飛な投書にもひるむ事なく真正面から返答し、“上から目線”で相手の人格を鑑定した上、場合によっては全否定で切り捨てます。

 しかもこの記者、全て同一人物なのかどうかは分かりませんが、何とも言えない美しい日本語を使うのです。「〜になさいまし」とか、「およしなさいよ」とか、今では聞かないような語調が頻出しますが、そこに時代の空気というか、味わいのようなものがあって、思わず「声に出して読みたい」気持ちになってきます。

 カタログハウスの編者はさらに、現代の視点から、それぞれのやり取りに対して別枠でコメントを付け加えています。これが必要かどうかは賛否両論ありそうですが、記者の返答に対しても言及があり、私は楽しく読みました。当時の新聞から採択したと思われる数々のイラストも、雰囲気をよく伝えています。

“京都の名書店が出版した待望の一冊。味わい豊かな一級のエッセイ集”

『本屋の窓からのぞいた{京都}』 

 恵文社一乗寺店  (毎日コミュニケーションズ)

 京都の一乗寺にある、本好きの間では伝説的に有名な書店、恵文社一乗寺店。最近ではアジア諸国からもお客さんや取材が来るそうですが、このお店がなぜ本好きの知的好奇心をそそるのか、その秘密のようなものが本書から伺えます。

 文中の言葉を借りると、「他のお店では売っていないもの」ではなく、ここに置く事によって違って見える、そんな本を並べる事。とにかく新しい本ではなく、一冊一冊スタッフが納得いくものを紹介する事。本の持つアナログ感、情報伝達のスローさを大切にする事。こういう事は、言うだけなら簡単ですが、マニフェストに掲げて実践してゆくのに、大変な知識とセンスを必要とする事は言うまでもありません。

 お店に行ってみれば分かります。いかにも京都らしく落ち着いた店内で、巧妙に配置された書籍同士の化学反応に驚かされ、その含蓄の豊かさと情報編集のセンスに圧倒される内、気がつけばいつも、今後読んでみたい本のリストが数倍にも膨れ上がります。ただでさえ家に未読の本が積んであるので、これはちょっと困るのですが、うれしい悲鳴です。

 本書は、「本にまつわるあれこれのセレクトショップ」を掲げるこの店が扱ってきた本や雑貨だけでなく、近辺のお店やアーティスト達の紹介、果ては京都案内の体も成したりしますが、私にはむしろ、極上のエッセイ集として読まれるべき本に思えます。店長の堀部篤史氏以下、スタッフの皆様による文章の、なんと美しく、情感豊かな事でしょう。馥郁たる文学の香りがほのかに漂う中、思わず膝を打つ深い視点や言葉がすっと挿入されてくる所、名エッセイと呼ぶ他ありません。

 なるほど、こういう人達であればこそ、ああいうお店が作れるのだなと、深く感じ入った私でした。本来であればこの《サブカル》欄ではなく、《エッセイ》の欄で紹介すべき本なのでしょう。もし私が恵文社の店員だったら、こういう所を叱られるのかも。カラー写真も豊富に収録。

“全国有名文具店の店員さんたちが愛を込めてリコメンドするステーショナリー・ガイド”

『店員さんがすすめる良品ステーショナリー』

 シリーズ「知・静・遊・具」編集部  (ロコモーションパブリッシング)

 世の中には文具好きの人も結構多いようで、最近は雑貨屋さんでも文房具の本をちょこちょこ見かけます。類書は多く、敢えて取り上げるのも気が引けますが、本書が面白いのは、単独の本も出ている銀座・伊東屋をはじめ、丸善、ナガサワ文具センター、文房堂、エトランジェ・ディ・コスタリカなど、人気ステーショナリー・ショップで働く店員68名が、それぞれのコメント付きでアイテムを紹介している所。老舗だけでなく、スコス・ステーショナリーズ・カフェやチャルカなど雑貨屋系セレクト・ショップも参加しています。

 いわば文具のプロであるこの人達が、実名と顔写真入りでリコメンドするステーショナリー達は、デザインが美しかったりユニークだったりするだけでなく、実用性や品質にも目配りが行き届いていてさすが。アイテムへの思い入れや愛情もたっぷりです。

 私には一本何万円もする万年筆なんて異次元の存在にしか思えませんが、各ページにレイアウトされた写真は眺めているだけでも楽しく、そこはかとないロマンを感じます。私は百貨店の文具売り場などで、買いもしないのに高級ボールペンのカタログを貰って帰り、写真を見ながら思いを馳せる事もよくありますが、そういう人には最適の本かもしれません。勿論、実際に購入するに越した事はありませんよ。

“斬新な切り口で編集された、ボリューム感満点のコアな京都本”

『京都らしいものの現在』

 藤田功博・編  (NOZOMI)

 京都の本、いわゆるガイド的な本は数多くあれど、こういう斬新な切り口のものは珍しいのではないでしょうか。うむ、“京都らしいものの現在”。よくよく考えれば、どんな京都本もみんな“京都らしいものの現在”なのですが、そこはコンセプトの妙というか、タイトルの付け方、視点の置き方の勝利というか。

 オールカラーで写真満載、一見ガイド本みたいな親しみ易いルックスをしていますが、実際に読んでみますと、各カテゴリごとにその歴史や発展の過程、現況から未来の可能性にまで言及されていて、文章の充実度も相当なものです。私のような他所の人間(なおかつ庶民)が簡単には敷居をまたげないようなお店や、その商品も紹介されているのは通常のガイド本にない良さ。だって、36万円もするべっこうのかんざしとか、普通の人は買わないでしょう。

 正直な所、一冊読んでお腹いっぱいというボリュームですが、さらに続編というか補完的な『京都みやげを買う前に』という本が出ています。これまた気になるタイトルですが、こちらはさらにページ数もアップし、見た目以上に掘り下げ方の深い内容を誇る京都本。

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