*食べ物/飲み物 〜レシピ本ではなくガイド系で〜

◎目次

おいしくてかわいい 伊藤まさこ、渡辺有子  

食品の裏側 みんな大好きな食品添加物 安部司  

第62代横綱大乃国の全国スイーツ巡業 芝田山康 

ミネラルウォーター・ガイドブック 早川光

ベルギービール大全』 三輪一記、石黒謙吾  

『3日目のワインがいちばんおいしい』 渡辺良平  

からだにおいしい 野菜の便利帳 板木利隆・監修 

“センス抜群で見た目にも楽しい、おいしくて可愛い物セレクト・ブック”

『おいしくてかわいい』

 伊藤まさこ、渡辺有子  (主婦と生活社)

 おいしいもの、かわいいものを見つけると、誰かに教えたくなる。私達もブログで同じような事をやっているので、この気持ちはとてもよく分かります。本書の著者は、スタイリストの伊藤まさこと料理家の渡辺有子。紹介アイテムはさすがのセンスでチョイスされていて、お二人のやりとりも収録しています。国内で入手できる品物を取り上げているのも、この本の利点(ショップ・リストも載ってます)。

 本書が独特なのは、ページの構成。見開きの2ページで、左に伊藤まさこ、右に渡辺有子の紹介アイテムを載せ、次の2ページでそれぞれのコメントを見開きで掲載、この繰り返しです。あくまで交互です。商品情報だけでなく、おすすめの食べ方やパッケージの利用法までコメントされています。ポンヌママンのジャムみたいなスーパーでも見かける物から、高級ほうじ茶、あまり目にしない輸入品まで、ほぼオールカラーの楽しい本。続刊あり。

“読んでびっくり、意識改革。思わず恐くなる食品業界の告発本”

『食品の裏側 みんな大好きな食品添加物』 安部司

『スーパーの裏側 安全でおいしい食品を選ぶために』 河岸宏和

 (東洋経済新報社)

 私達は、肉体と精神を分けて考えがちですが、精神活動を行っている脳も肉体の一部です。なればこそ、肉体を作り、行動や思考の源泉となる食物はすこぶる重要で、正に食事は、生命活動の根幹といえるのではないでしょうか。

 以前の私は、食事なんて何とかやりすごせばいいくらいに考えていて、百均のレンジ食品や栄養ゼリー食品で済ませたり、面倒臭い時は一食抜いたりしていました。まあ食べない健康法なんかもありますが、食べ物が思考や精神状態に及ぼす影響に思い至ってからというもの、口に入れる物に関しては出来るだけ添加物の少ない食品を選ぶようになりました。

 『食品の裏側』は一時大きな話題になった本ですが、食品添加物の効用とその恐ろしさが、非常に分かりやすく説明されています。口に入れる物にこだわる人やお子様のおられる人は、是非読んで欲しいと思います。一体私達は何を食べているのかと、ぞっとします。

 著者は業界のトップ・セールスマンだった人で、必ずしも添加物を全否定している訳ではなく、そのメリットや、添加物なしで食品業界を成り立たせる事の困難さも、きちんと指摘しています。しかし、この本を読んでスーパーに行ってみると、出来るだけ添加物の少ない製品を選ぶ事は可能だと分かります。値段の高い製品ほど添加物が少ないかというと、意外にそうなっていないケースもあって驚きます

 『スーパーの裏側』は著者が別の人ですが、こういう内部告発的な暴露本を執筆しようと思ったいきさつ、現在のスタンスなど、『食品の裏側』の著者と非常に似通っています。これを読むと、普段利用しているスーパーを見る目が変わって、まるで審査項目をチェックするような感じになります。利用者がそういう目を持つ事は、きっと大切なのでしょう。

 産地や賞味期限の偽装が多発している昨今、消費者ももっと勉強して、自分達の目で食品業界のウソを見抜く事が必要なのかもしれません。大半の消費者が国産の食品や無添加製品を買うようになれば、それらの値段が下がって悪質な製品を駆逐し、果ては食糧自給率を上げる事も夢ではないのかもしれません。地産地消で輸送が減れば、環境にも優しいですしね。

“男が甘い物好きで何が悪い! 親方がスイーツへの愛を熱く語る異色のお菓子本”

『第62代横綱大乃国の全国スイーツ巡業』

 芝田山康  (日本経済新聞社)

 角界きっての甘党で美食家といわれる大乃国が、そのこだわりを全面にぶちまけた異色のスイーツ紹介ブック。まず笑えるのが、本の前半部分。いきなり「全国スイーツ巡業 勝負の心得」という事で、「心得一、俺は甘党だと堂々と言おう」に始まり、「心得二、間に合わせでお菓子を買わない」と真剣勝負の緊張感をも漂わせつつ、「心得三、自分の五感を信じる事」と早くも精神論の域に達しつつあります。

 お次は入門編と題し、自らのお菓子歴を幼少の頃から数ページに渡って著述し、さらには稽古篇という事で、自らお菓子の作り方を伝授したり、親方がプロのパティシエにお菓子作りを学んだ様子を紹介したり。後半は、全国各地のスイーツをカラー写真で紹介するという、オーソドックスな作りになってはいますが、親方のコメントが笑えます。

 本文は結構細かいこだわりも見せて、なるほどと頷かされる内容ですが、見出しは「素材も風味も横綱級!」「3層構造には参ったね!」「僕はこのチーズケーキに惚れている」「マロンペーストが、がつんと旨い!」などなど、男気溢れるパワフルなものばかり。鳩サブレーに至っては「食べながら、日本茶を飲んでクチュクチュすると、これがうまい!」なんて、めっちゃ個人的な嗜好を堂々と大見出しに連ねてます。

 お菓子のチョイスは、知る人ぞ知るお店から、六花亭やロイズコンフェクト、アンリ・シャルパンティエといった全国的に有名なお店まで多彩ですが、お土産にも自分がうまいと納得したものしか絶対買わないという親方だけあって、世評に惑わされない確たる自信をうかがわせ、頼もしい限りです。続刊あり。

“なぜか気鋭の映画監督が書いた、至れり尽くせりの徹底した水ガイド”

『ミネラルウォーター・ガイドブック』

 早川光  (新潮社)

 私は何にしてもこういう、ガイド的な情報本が好きなのですが、好きな割にはあまり所有していません。飲み物ならコーヒーとかビールとか、他の分野なら建築物のガイドマップやら、草木や動物、星の図鑑やら、書店へ行くとたくさん並んでいますが、敢えて手に取り、さらに購入意欲をそそられるためには、単に質・量共に満足な情報を掲載しているだけでは不十分で、やっぱり視点が独創的だったり、装丁や構成がおしゃれだったりという事が、ポイントになってきます。

 この本を手に取った理由は2つ。まず著者が映画監督、それも奇才タイプの早川光である事と、表紙と本文のカラー写真が美しく、まことにもって爽やかなこと。私が手に取った時は、ちょうど目の高さくらいの所に、表紙が見えるように陳列してありましたが、かなり遠くからでも目を惹きました。大体、ミネラルウォーターというのは(特に海外のものは)、ボトルのデザインがユニークで美しかったりして、写真だけでも眺めていて楽しいものです。

 本書は厳選した128アイテムに関し、産地や成分、殺菌方法、ボトリング状況、効能、味の特徴、問い合わせ先まで、情報面において完備。後半ではミネラルウォーターの定義や歴史、基礎知識や選び方から、料理や飲み物での使い方にまで言及し、正に至れり尽くせり。

 思わず、「この人、なんでこんなに教えてくれるんだろう? そして、なんでこんなに詳しいんだろう?」と素朴な疑問すら浮かんできますが、私のように、「ミネラルウォーターには軟水と硬水の2種類がある」という程度の知識しか持たない読者なら、目からウロコがぼろんぼろん落ちること請け合いです。

 著者の早川光は、80年代スプラッター・ブームをリアルタイムで経験した人には懐かしい名前。彼の出世作『アギ・鬼神の怒り』は、今昔物語に題材を取った非常に斬新な映画で、当時話題を呼びました。20代の若い映画監督が、劇場映画の経験もないまま平安時代の物語に挑戦し、人が鬼に変身する奇抜な特殊効果で観客の度肝を抜いた上、全編に渡ってワーグナーの音楽を使用するという常人離れしたセンス。

 さらに彼は、ヴェルナー・ヘルツォークなど世界の異色監督達と交流を持ち、そうかと思えば、アボリアッツ映画祭ではサムライの衣装で舞台挨拶して喝采を浴びるなど、常にニュースな人として見逃せない存在でした。しかしそんな彼も、しばらくホラーをぽつぽつ撮った後、突然『けっこう仮面』という意味不明のVシネマなどを撮り、映画業界から忽然と姿を消します。

 ところが彼は、いつの間にか水の研究をライフワークとするライターとして頭角をあらわしていたのでした。一体どういう人なのかと思ったりもしますが、そういうわけでこの本も、映画監督が趣味の分野でちょっと書いてみましたという隠し芸的なものではなく、隅から隅まで、徹底した調査に基づく専門ライターによるガイドとなっています。

“近年大人気のベルギービール。その多彩かつ邪道な世界を大々的に紹介するガイド本”

『ベルギービール大全』

 三輪一記、石黒謙吾  (アスペクト

 トラピスト(修道院)ビールを中心に、急激に人気を増したベルギー産ビール。高級スーパーや百貨店で見かけるシメイ、レフ、ヒューガルテン、オルヴァル等の銘柄以外に、まだこんなに種類があったのかというのが、本書です。ゆうに146銘柄にも渡ってオールカラーで、専用グラスに注いだ写真と外観を紹介。さらには味の傾向を表すチャート表、適温、専用コースターの写真まで、著者のコメント付きで細かくガイダンスしています。壮観です。

 実際に色々と飲んでみると、これってビールなの?というくらい原材料が多彩なのに驚きます。純粋主義を貫くドイツのビールからすると、こちらは混ぜ物大歓迎という邪道のビール文化。カラメルや各種スパイス、ハーブ、果てはフルーツ果汁までブレンドして、ほとんど柑橘系の酸味しか感じられないようなビールまであります。そして、アルコール度数が結構高かったりします。

 ヨーロッパでは、ビールもワインと同様にゆっくり味わって飲むもので、最初の喉越しに命をかけている日本のビール(だから時間が経つとマズくなる)とは、基本的に発想が異なります。私のような、成人したばかりの頃に「ビールなんて苦いだけで何がおいしいのか分からない」とアグレッシヴに主張していた人こそ、ヨーロッパ・ビールの世界に入っていって欲しいですね。ベルギーのビールは、その入口として最適ではないかと思います。できればスーパーで買える瓶ビールではなく、ちゃんと温度管理をしてサーバーから注いでくれるお店で飲んで欲しい所。

“エッセイ的な切り口で有益な情報を満載した、ワイン・ビギナー向けの良書”

『3日目のワインがいちばんおいしい』

 渡辺良平  (新星出版社)

 ワインの入門書というと、ずらっと生産地や写真が並んだ図説的な内容が多く、どうしても銘柄暗記型の知識になってしまいがちですが、本書はエッセイ的な切り口で有益な情報を教えてくれる良書。著者は神戸にあるワインショップの店主で、専門知識のある店員さんが、ビギナーに優しく教えてくれるような体裁です。写真はなくイラストも少なめですが、おしゃれな感じの本で、1行当たりの文字数も少なく設定されていて配慮が窺えます。重要なセンテンスをマーカーで強調してあるのも親切。

 難しい事を考えず気軽にワインを楽しんで欲しいというスタンスですが、チリ・ワインや国産ワインをめぐる状況の変化や、ボジョレーヌーヴォーやロゼ・ワイン、スパークリング・ワインに関する話題など、目からウロコの情報も多々あり。コスト・パフォーマンスやお店での管理の仕方、温度変化の話など、安く、おいしく飲むためのコツも指南されていて、突出してワインが好きな人以外にも嬉しい内容です。唯一、誤植が多いのはマイナス点。

“本当に便利! 読むだけでも楽しめる情報満載の野菜・果物辞典”

『からだにおいしい 野菜の便利帳』 

 板木利隆・監修  (高橋書店)

 知っているようで知らない野菜や果物の細かい種類について、オールカラーで辞典のように紹介してくれる、文字通り便利な本。私のようにあまり料理をしない人でも、ああ、この野菜にはこんなたくさん種類があるのかと、眺めているだけでも楽しい内容です。実用性も高く、選び方や保存方法、農薬など安心のための下準備の仕方、おいしく食べるコツや料理のレシピも掲載。

 さらには、各野菜の歴史や由来から特徴、含まれている栄養素、エネルギー量、おいしい時期や主な産地、その他の雑学など、幅広い情報を完備。最後の方には、ハーブにも少しページを割いてあります。近年は野菜ブームで、野菜料理をメインにしたオシャレなレストランも増えていますし、アンチ・エイジングやスロー・ライフにも関わる話ですから、野菜の知識は持っておいて損はないと思います。同じシリーズで『魚の便利帳』も出ていて、こちらもお薦め。

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