オリジナル・タイトルで《バッキアーナス・ブラジレイラス》と呼ばれる事もあるこの作品集は、私の大好きな曲の一つ。バッハのような和声や対位法を軸としている点で、近・現代の作曲家としては保守的な作風とも言えますが、それをブラジル風の活気溢れるリズムや、どことなく懐かしい感じもする歌心、濃いめの情緒などで味付けしているのが面白い所です。また、連作でありながら各作品によって楽器編成が違い、室内楽や歌ものまで入っているのもユニークな趣向です。もともと数少ないこの曲のディスクの中で私がきいてきたのは、ポール・カポロンゴ指揮パリ管弦楽団盤と、エンリケ・バティス指揮ロイヤル・フィル盤ですが(他に、冨田勲がシンセサイザーで何曲か取り上げたアルバムも持っています)、どちらも一流の指揮者とは言えず、当盤の発売がアナウンスされた時には胸が高鳴りました。第5番のアリアをルネ・フレミングが歌っている点も注目されます。 演奏は期待通りの充実したものですが、時にT・トーマスの音楽作りが壮大にすぎて、奥地の密やかな音楽という素朴な雰囲気が損なわれている感じはしないでもありません。惜しむらくは、傑作と思える第2番が入っていない事と、オーケストラのチョイス。T・トーマス自身が組織したニューワールド・シンフォニーは大変に優秀な団体で、技術的にも音色的にも瑕は見当たりませんが、こういう、あまり演奏されない曲こそ、メジャーなオケで聴いてみたかった気はします。選曲に関しては、特に掘り出し物だったのが、ショーロス第10番。土俗的なコーラスを交えて、オスティナート・リズムで盛り上がってゆく所はエキサイティングそのものです。 |