このトロップという人は、とても不思議なピアニストで、56歳で日本デビューして以来、ほぼ全てのディスクが大絶賛を持って迎えられている状況自体も特殊ですが、彼の演奏、ぽつりぽつりと呟くように音を奏でる詩的なスタイルには、何とも言えない魅力があります。このアルバムでは、前半のチャイコフスキーとリャードフに彼の資質が遺憾なく発揮されている一方、後半、スクリャービン以降の作品では、トロップ特有のソフトなタッチよりも、暗く、激情的な音楽表現や、超絶技巧的なピアニズムにスポットが当てられた感が無きにしもあらずでしょうか。それだけ、ロシアのピアノ作品の魅力を幅広く紹介しているアルバムだと言えるでしょう。一切の虚飾を排した、素朴で温かいトロップの演奏は、それら作品の比類なき美しさを、まったくストレートに伝えていて、スクリャービンの曲でも、《3つの小品》のほのかな幻想味などは、正にトロップならではといった所でしょう。 |