ヨーヨー・マほどのスターなら、著名なチェロ作品は全てレコーディング済みかと思いきや、意外にもコダーイは初録音でした。しかし、この曲を弾く事は長年の夢だったらしく、このアルバムには、いわば満を持してという気負いもあったでしょうか、音楽を通して人と人を繋ぐ事を理念に掲げた彼のライフワーク、“シルクロード・プロジェクト”の第1弾として企画されています。 内容は、プロジェクトの趣旨にふさわしく、“さすらいとルーツ”をテーマに様々な国籍の作品を収録しています。コダーイ以外の曲は、私達リスナーが初めて耳にするような作品ばかりだと思いますが、それもその筈、チェレプニンとコダーイ以外はまだ存命中の現役作曲家でした。英国の作曲家ワイルドは、テロの標的になったパン屋の前で毎日命がけの演奏を続けたサラエヴォのチェリストを音楽で描き、ヨーヨー・マの父が師事したというロシアの作曲家チェレプニンは中国の音楽素材を使った組曲を作曲、上海生まれのシェンは中国民謡から曲を発想し、アメリカのオコーナーは、フィドルの音楽語法を曲に取り入れるといった具合。ハンガリーが誇るコダーイの名曲については、皆さんご存知の通り、民俗的な要素をふんだんに取り入れた、チェリストにとって最大の難曲の一つとなっていますね。 私は器楽曲にも現代曲にも疎い方で、あいにく演奏について踏み込んだ意見は述べられそうにありませんが、そこはヨーヨー・マの事、冒頭のコダーイからして、私のようなリスナーが聞いても思わず引き込まれてしまう音楽的磁力に満ちあふれています。作品自体は、必ずしも親しみやすいと言えるものばかりではないですが、彼特有の、作品とリスナーを瞬時に近しい存在に結び付けてしまう不思議な能力のおかげで、クラシック・ファンなら充分楽しく聞けるアルバムになっています。 |