私には懐かしいアルバム。日本ビクターのスタッフが最新のデジタル機器をソヴィエトに持ち込み、メロディア・レーベルと共同製作した一連のシリーズは、当時の音楽ファン、オーディオ・マニアの間で衝撃をもって迎えられたものです。特に第1弾となった《春の祭典》の土俗的迫力は凄まじいものでしたが、当アルバム冒頭の《はげ山の一夜》にも相当なインパクトがありました。 いささかもうわつかない、悠々たるテンポの中、大太鼓の連打に乗ってトロンボーンとテューバによる主題提示が行われる箇所の尋常ならざる迫力、生々しい響き、中間部で一旦静まった音楽が、徐々にエネルギーを増しながら猛々しさを取り戻してゆく、鳥肌の立つような盛り上げ方。当時はフェドセーエフなんてほとんど無名でしたから、こんな凄い指揮者とオケがロシアにいたのかと仰天したものですが、今でも当盤はこの曲の一番のお気に入りです。 ボロディンの歌劇《イーゴリ公》から、敢えて《ダッタン人の行進》というマイナーな選曲をしているのも通好みですが、このディスクをお勧めするもう一つの理由は、珍しい組曲《コーカサスの風景》が全曲収録されている事です。ラストの《酋長の行列》だけは昔からポピュラー名曲としてよく演奏されます(今はそうでもありませんけど)が、全曲では滅多にきかない曲ですね。冒頭の《峡谷にて》なんて、ロシア版《グランド・キャニオン》みたいで、スケールの大きな面白い曲です。聴きものは、何といっても《酋長の行列》。これも又、非常にスローなテンポで、焦らず、慌てず、本来の曲調と言える軽快な愉悦感から徐々に逸脱しながら、狂乱のクライマックスへと突き進んでゆく所、誠にもってスリル満点です。これが生演奏なら、ブラヴォーの嵐でしょう。アンコールなどでもっと取りあげて欲しい曲です。 これらの録音の後には本格的なデジタル時代が到来し、目の覚めるような鮮烈なサウンドというのも別に珍しくなくなってきました。当盤も、今ではさすがに超優秀録音というほどの強い印象は受けませんが、選曲の面白さと演奏の凄みはまだまだ技ありだと思います。 |