チャイコフスキーの《四季》は、《舟歌》や《トロイカ》だけはよく単独で演奏されますが、全曲版としては意外にメジャー録音が少なく、ブロンフマンのようなピアニストがレコーディングしてくれるのは、有り難い事です。ブロンフマンは、よく知らないながらも、結構バリバリ弾きまくるヴィルトオーゾのイメージがあったのですが、ここではむしろ内向的に、間を大事にしながら弾いています(この曲をバリバリ弾いたらおかしいですが)。美しい作品集なので、馴染みの薄い音楽愛好家の方がいらっしゃったら、是非聴いて欲しい曲です。 一方《イスラメイ》は、古今のピアノ作品の中でも一、二を争う難曲として知られる小品。当然ブロンフマンも適性を示すわけですが、私がこの曲を好きなのは、別にピアニストの超絶技巧が聴けるからではなく、作品が持つオリエンタルな叙情性ゆえです。主部の和声の色合いもそうですが、ほのかな哀愁を湛えた中間部のノスタルジックな旋律など、ロシアと言ってもアジアに近い地方のムードが濃厚な、清冽なリリシズムが心に残ります。ボロディンの《ダッタン人の踊り》に現れる例の美しい主題や、リムスキー=コルサコフの《シェエラザード》第3楽章の情緒纏綿たる歌の世界などと、正に同じ土壌から生まれた音楽だと言えるでしょう。オーケストラ用に編曲されたヴァージョンをエサ=ペッカ・サロネンとバイエルン放送交響楽団がフィリップスに録音していますが、オケで聴くとその印象はさらに顕著になります。併せて一聴をお勧めします(すみません、現在入手困難です)。 |