スペインの作曲家フェデリコ・モンポウの名前は一応知ってはいましたが、実際に音楽を耳にしたのは、私にはつい最近の事。モンポウの演奏をライフワークにしている熊本マリが全集の再録音を始めていて、そのアルバムがたいそう魅力的に見えたのがきっかけでした。 モンポウ、不思議な作曲家です。少なくとも、私達がスペインと聞いてイメージする、太陽の照りつけるようなギラギラした原色のサウンドや情熱的なリズムは、ほとんど出てきません。むしろ、内向的で、リリカルな音楽と言えるのではないでしょうか。《静かな音楽》と名付けられている通り、静謐で、密やかで、心の深い部分に響いてくるような世界が展開します。 一方、ボーナストラックとして収められた《ロマンス》は、モーツァルト生誕のちょうど50年後、同じ日に生まれ、たった20歳で夭折したスペインの作曲家アリアーガの作品。モンポウとはかなり雰囲気の違う、明朗で可愛らしい小品です。熊本マリ自ら、スペインの図書館から楽譜を取り寄せてレコーディングしたそうです。 ちなみに、彼女のモンポウ再録音は当盤の前にもう一枚、《秘密》と題された作品集があります。こちらはチェコの名ホール、ルドルフィヌムで録音されていて、《内密な印象》《歌と踊り》など、《静かな音楽》に較べるともう少し親しみ易い雰囲気の作品が収録されていますが、やはりモンポウ特有のほの暗い詩情に溢れた、繊細な音楽世界が味わえます。一緒にお薦めしておきましょう。 |