ヴェルディのオペラではあれほどに徹底した原典主義を貫くムーティが、よりにもよって映画音楽を振るの?というのが、私が受けた第一の衝撃。実際、これらの作品は一応オーケストラのための純音楽として作曲されていますが、映画音楽そのままの部分もかなりあり、本当にこれをムーティが指揮しているのかと、自分の耳が信じられなくなる瞬間もしばしば。それでも演奏はやはり、この指揮者らしく格調の高いもので、彼のロータ作品に寄せる愛情はじんわりと伝わってきます。 バレエ組曲『道』はミラノ・スカラ座の依頼で作曲され、今でもスカラ座のレパートリーとして上演されているという、正に当盤で演奏している人達ゆかりの音楽。ストーリーは有名な映画『道』から取られていますが、他のフェリーニ作品やヴィスコンティの映画の音楽素材も使って構成しています。ほとんどクラシックに近い部分と、完全に軽音楽という部分が躊躇なく同居する所がニーノ・ロータの大胆さというべきでしょうか。弦楽のための協奏曲も、そのまま映画に使えそうな曲。ロータの音楽を愛するファン(私もそうです)なら一度聴いただけで好きになってしまうような、4つの楽章からなる魅力的な小品です。『山猫』は、ヴェルディの未刊行のワルツをロータがオーケストレーションし、さらに6つの舞曲を書き加えた組曲風の作品。 さて、これだけならまだムーティの一風変わったアルバムとして片付けられたかもしれませんが、彼は1997年、ロータの作品集をさらにもう一枚録音しています。こちらは何と『ゴッドファーザー』の音楽まで収録した、完全な映画音楽集。“クラシック作品”というエクスキューズすらなしのド直球です。参りました。作品はコッポラの《ゴッドファーザー》に始まり、フェリーニの《81/2》《甘い生活》《オーケストラ・リハーサル》、そしてヴィスコンティの《若者のすべて》と《山猫》。さすがに《ゴッドファーザー》や《山猫》の甘美なメロディがムーティの棒で朗々と歌われるに至っては感慨深いものがありますが、真摯な姿勢で演奏されたロータ作品は予想以上に高い音楽性も備え、クラシック畑のリスナーも納得の仕上がりです。スカラ座の艶やかな弦の響きも聴きもの。(ムーティはその後、下記リンクの通りロータのピアノ協奏曲も録音) |