“作曲家愛蔵のピアノで、一曲ずつ大切に弾かれるシベリウスの小品達”

アイノラのシベリウス

(5つのスケッチ、樹の組曲、花の組曲、3つのソナチネ、5つのロマンティックな小品、5つの性格的小品)

 舘野泉(ピアノ)

(録音:1994年  レーベル:キャニオン・クラシックス)

 これはとても素敵なアルバムです。舘野泉は勿論、日本を代表するピアニストの一人ですが、若くしてフィンランドに移住し、シベリウスやグリーグをはじめとする北欧のピアノ曲を日本に紹介するのに、誰よりも熱心な活動をしてきた人でもあります。当ディスクは、そんな彼にぴったりの企画。作曲家シベリウスが後半生を送ったヤルヴェンパーのアイノラ山荘で、しかも、作曲者自身が愛奏していた個人所蔵のピアノで彼の曲が録音されているのです。これは、シベリウスが50歳の誕生日にフィンランド国民から贈られたというニューヨーク・スタンウェイで、実際にシベリウスが住んでいた木造のこじんまりした部屋で録音されていて、非常にパーソナルな、温もりを感じさせる音がします。

 曲も又、どれもが2分前後の小品ばかりですが、その一曲一曲の中に、森と湖の静寂の中から、樹や花がぽつりぽつりと話しかけてくるような、独特の静謐で透明な世界が凝縮されているようです。中には、《樅の木》や《ロマンス》のように、北国の自然の厳しさを如実に反映したシベリウスの音楽には珍しく、ロマンティックなメロディを持つ曲もありますが、ソナチネの無駄を排した緊密な音構成などは、いかにもシベリウス的という感じでしょうか。このアルバムは好評だったらしく、続編が製作されています。

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