サロネンの実質的デビュー盤で、バイエルン放送響との目下唯一のディスク。フィリップス・レーベルへのレコーディングも、これ以降は継続しませんでした。当時は二十代でレコードデビューする指揮者は珍しく、風貌の若々しさ共々、鮮烈な印象を受けた事を今でも思い出します。メシアンやリゲティなど現代物のイメージが強い彼ですが、案外サービス精神もあって、こういったロシア名曲集やグリーグの《ペール・ギュント》など定番レパートリーをちゃんと録音している最後の世代ではないかと思います(バーナード・ハーマンの映画音楽集やバッハのトランスクリプション集など、楽しい企画アルバムも発表しています)。 当盤も、サロネンらしいクリアな響きと躍動的なリズムで一貫したフレッシュな演奏。収録がヘルクレスザールではなくバイエルン放送局で行われていて、音場の奥行き感とスケールはもう少し欲しい感じもしますが、透明感のある爽快なサウンドは、清新な演奏にふさわしいものです。一方で、若さに似合わぬ卓越した演出力も発揮。《1812年》は非常に遅いテンポをとって彫りの深い表現を展開していますし、《中央アジアの草原にて》も主題提示で思い切りテンポを落とすなど、かなり変化に富む演奏。注目は、バラキレフの超絶技巧ピアノ曲《イスラメイ》の管弦楽版が収録されている所でしょうか。こうやって肉付けされたヴァージョンで聴くと、ロシアと東洋の交差する叙情的世界(ボロディンの系列ですね)に引き込まれるよう。 |