ドイツ歌曲はリート、フランス歌曲はメロディと呼ばれますが、このアルバムでは、近代フランスの作曲家ガブリエル・フォーレが書いた、100曲近くもあると言われるメロディの中から28曲が選ばれ、作曲年代順に並べられています。まだ十代のフォーレが書いた、親しみやすい魅力的な作品群からきいてゆくと、後半の円熟期の作品はいかにもフォーレらしい、アンニュイで複雑な精神世界に分け入ってゆくような印象を受けますが、全体としては、私のような、普段あまり歌曲の世界に馴染みのないリスナーでも十分楽しめる、美しいアルバムになっています。 どこかほの暗く、柔らかい声質を持つシュトゥッツマンは、リートでもメロディでも、そしてバロック音楽などにおいても高い評価を得ている実力派歌手ですが、ここでも名手カトリーヌ・コラールとのコンビで、一曲一曲を慈しむように、知的かつデリケートな歌唱できかせてくれて、思わず何度でも繰り返しききたくなります。もし、アルバム後半の、少々取っつきにくい感じの歌曲にも興味の触手を伸ばされた方には、同じくシュトゥッツマンによる、エルネスト・ショーソンの歌曲集をお薦めします。 ショーソンも又、複雑な感情の海を泳ぐような、情熱と倦怠の入り交じったメロディを書く人ですが、その中には《ナニー》や《ハチドリ》のように甘美で親しみ易い曲や、《リラの花咲くころ》や《果てしない歌》のようによく知られた作品も混ざっています。こちらのアルバムでは、惜しまれつつこの世を去ったコラールに代わり、シュトゥッツマンが“ようやく探し当てたピアニスト”と語るインゲル・ゼーデグレンが伴奏を担当していますが、相変わらず美しいシュトゥッツマンの歌唱と共に、早くも息の合った所を見せています。ショーソンの歌曲だけを集めたアルバムはそう多くはないので、彼女のような才人の歌唱でまとめてきける機会は貴重だと思います。 |