シャイーは、ショスタコーヴィチの珍しい小品などを集めた楽しいアルバムを、何と3枚も録音しています。題して《ダンス・アルバム》《フィルム・アルバム》《ジャズ音楽集》。どのディスクも、これがあのショスタコーヴィチかと耳を疑うようなキャッチーな作品を多数収録していますが、わけてもこの《ダンス・アルバム》には、やたらとコミカルで軽快だったり、大げさにデフォルメされた身振りがあったり、そうかと思えば胸に沁みるロマンティックなメロディが流れてきたり、およそこの作曲家の深刻なイメージにはそぐわない、楽しい音楽が並んでいます。本当の所、ショスタコーヴィチは若い頃に劇場で無声映画のピアノ伴奏を担当した経験があり、トーキー以後も映画音楽を作曲していて、相当な数の娯楽音楽を書いたそうですが、クラシック音楽の作曲家としては、交響曲や弦楽四重奏曲の暗くてシリアスなイメージが強いので、つい意外に感じてしまうというわけです。 シャイーとフィラデルフィア管弦楽団の組み合わせは、レコーディングの上では極めて珍しく、当コンビによるディスクは今の所これ一枚に留まっているようですが、ここにきくフィラデルフィア・サウンドの豊麗さには、曲が持っている魅力を倍増させるだけのパワーがあります。そして勿論、シャイーの快活な棒さばきにぴったりとついてゆく名技性も備えています。それにしても、馬あぶの《ロマンス》、なんてセンチメンタルで素敵な曲なのでしょう。何度きいてもホロリとさせられます。ちなみに、他の2枚のアルバムは当時の手兵、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団との演奏ですが、これらも大変面白いアルバムですので、共にお薦めしておきましょう。 |