“円熟の名手ブレンデルの指先から紡ぎ出される、素朴で暖かい歌”

ベートーヴェン / バガテル集

 アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)

(録音:1996年、1984年  レーベル:フィリップス)

 ベートーヴェンのピアノ曲は、言うまでもなくあの、ピアノの新約聖書とも呼ばれるソナタ全32曲が有名ですが、そういう密度の高い、峻厳な創作の一方で彼は、バガテルと名付けた親しみやすい小品集を3つのセットにまとめて出版しています。当盤には、その3種類のバガテル集の他、幾つかの小品と、有名な《エリーゼのために》が、これも実はバガテルだという事で収録されています。

 時に、私が学生時代に吹奏楽をやっていた頃、部内でアンサンブル大会という、各パートごとにそれぞれ自分達で曲を選んで発表会をするという企画がありましたが、その時クラリネットのグループの一つが、《11のバガテル》冒頭のアレグレットを編曲したものを演奏していました。その、何とも軽快で、それでいてどこか寂しいような風情のある独特のメロディが、私には大変印象に残ったのですが、以後しばらくこの曲の存在を失念していた所、名手ブレンデルがこの曲を含むバガテル集を録音したと聞き、早速購入に至った次第です。

 アルフレッド・ブレンデルは、クラシック・ファンの間では周知の通り、技術的な卓越のみならず、現役で最も知的なピアニストの一人として定評がありますが、彼は早くからベートーヴェンを得意にしてきた経緯があります。私自身も、彼が弾いたピアノ協奏曲全集を二セット(ジェイムズ・レヴァイン指揮シカゴ交響楽団と共演した84年盤と、サイモン・ラトル指揮ウィーン・フィルと共演した98年盤)と、三度目の録音に当たるソナタ全集を所有していますが、そんな彼が、円熟の境地にして望むこの素朴な小品集は、穏やかな表情と暖かいムードに満ちあふれた至福のアルバムとなっています。ベートーヴェンという作曲家に、どことなく近寄り難いイメージを持っておられる方には、ぜひこのディスクをお薦めします。尚、《エリーゼのために》だけは既発売の音源から採られているので、84年の録音となっています。

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