ワレリー・ゲルギエフ 指揮

マリンスキー歌劇場管弦楽団

曲目

ワーグナー/楽劇《ニーベルンングの指環》より

 《ヴァルハラ城への神々の入場》《ワルキューレの騎行》《魔の炎の音楽》《森のささやき》

マーラー/交響曲第5番

2006年1月29日 西宮、兵庫県立芸術文化センター大ホール

 初のゲルギエフ。まず、選曲が凄い。ワーグナーの《リング》とマーラーの第5という、コアなクラシック・ファンを狂喜でのたうち回らせるプログラム。もっとも、今回のツアーではチャイコフスキーの《くるみ割り人形》を何と全曲版で演奏して、それ1曲で終わりというプロもある(福岡)。この指揮者、やはりただ者ではない。私達の席は三階席の隅っこ。オーケストラが登場するが、意外にも若い楽員が多く、見た目もそんなにロシアロシアした人はいないようで、言われなければロシアのオケだとは分からない、洗練された感じ。もっと野性的な風貌のベテラン楽員が多いと思っていた。続いてゲルギエフ登場。かなり遠目だが、カッパ的ヘアスタイル(すんませんマエストロ)を見れば一目瞭然。さっと一礼したかと思うと、案外あっさりと演奏を始める。

 ゲルギエフは指揮台を使わず、床に直接立って指揮するので、ノッてくると、そのままオケの中に入っていくか、舞台袖に向かって歩いてゆきそうになる。自由自在だ。ワーグナーにはあまり詳しくないので、演奏の良否はうまく言えないが、オケの響きはものすごく洗練されていて、とてもロシアのオケとは思えない。1曲目が終わったら、拍手を受けてそのまま舞台裏に引っ込んだので、各曲を独立した作品として別個に演奏する方向かと思ったが、《ワルキューレの騎行》と次の曲の間では引っ込まず、一礼しただけですぐ演奏。

 後半はマーラー。大曲だが、さっとオケに向き直ってあっさり始める。冒頭のトランペット、とてもうまいが、音をテヌート気味に延ばして吹くのがいかにもロシア風で、これは「あっ、ロシアだ」と妙に納得する。大体どんな演奏会でも、オケの響きは休憩後にぐっとまろやかになる。楽員がベテラン中心に交代するせいか、単に緊張がほぐれてホールの響き方に慣れてくるせいか。しつこいようだが、ロシアのオケとは思えないような、柔らかくてまろやかな響き。ずっと聞いていたいような美しさだ。キーロフのオケって、こんな音やったんやね。

 マーラーの第五は大好きな曲なのだが、どうも昼間のコンサートでは、必ず一度はウトウトしてしまう。第3楽章と第4楽章で少し意識が飛ぶ。その上、なぜかホールの係員が突然通路に現れてキョロキョロするので、何があったのかと色々想像を巡らして集中できず。結局、何もなかったようだ。フィナーレで、コーダに向かって指揮者がどんどんテンポを煽ってゆく所、コントラバスの人達がネックを左右にグングン振って、そこだけビッグバンドみたいになる。ノリのいい人達だ。あんなの初めて見た。

 演奏の解釈どうこうよりも、オケの技術と音色に感動。このコンビの演奏はオペラのDVDしか持っていないので、これほどのオーケストラとは思ってもいなかった。それにしても、ゲルギエフはホルンの首席奏者ばかり拍手に応えて何度も立たせ、最後はオケの前にまで連れてくるが、あんなに好演したトランペット氏は、ホルン奏者の後に何度か立たせたのみ。数回のミスはあったが、そのミスがいかんという事か。それとも、ボストン交響楽団のチャーリー・シュレイターと小澤征爾みたいに何か確執があったりして。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 ゲルギエフ、ごつい名前だー、ぐらいのことしか考えずに鑑賞に臨む。(予備知識なし。)とにかくよく動く人。突然ものすごい前のめりになったりして、ぶっと笑いそうになる(失礼)。アクティブ指揮者だ。そして、演奏者もそれに応えて元気に演奏している。(というように見えた。)マーラーの曲は、だいたい私にはつかめない。今回の曲も、力強いマーラー。優雅なマーラー。かわいらしいマーラー。と、印象がどんどん変わっていくのだけど、他の曲より優雅で明るい印象を受ける。第4楽章は、映画「ベニスに死す」でおなじみの、あの旋律だ。こんな微妙な色合いの曲はそうはない。演奏会で聞くと、自分も含め、会場全体すっぽりその空気に包まれて、これが生で聞く醍醐味か!と思ったりする。本当になぜあれほどまでに、ゲルギエフはホルンを立たせていたのだろう。演奏が素晴らしいだけではない、何か特別な理由があるはずだ、と勝手に理由を考えながら帰りました。

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