初のゲルギエフ。まず、選曲が凄い。ワーグナーの《リング》とマーラーの第5という、コアなクラシック・ファンを狂喜でのたうち回らせるプログラム。もっとも、今回のツアーではチャイコフスキーの《くるみ割り人形》を何と全曲版で演奏して、それ1曲で終わりというプロもある(福岡)。この指揮者、やはりただ者ではない。私達の席は三階席の隅っこ。オーケストラが登場するが、意外にも若い楽員が多く、見た目もそんなにロシアロシアした人はいないようで、言われなければロシアのオケだとは分からない、洗練された感じ。もっと野性的な風貌のベテラン楽員が多いと思っていた。続いてゲルギエフ登場。かなり遠目だが、カッパ的ヘアスタイル(すんませんマエストロ)を見れば一目瞭然。さっと一礼したかと思うと、案外あっさりと演奏を始める。 ゲルギエフは指揮台を使わず、床に直接立って指揮するので、ノッてくると、そのままオケの中に入っていくか、舞台袖に向かって歩いてゆきそうになる。自由自在だ。ワーグナーにはあまり詳しくないので、演奏の良否はうまく言えないが、オケの響きはものすごく洗練されていて、とてもロシアのオケとは思えない。1曲目が終わったら、拍手を受けてそのまま舞台裏に引っ込んだので、各曲を独立した作品として別個に演奏する方向かと思ったが、《ワルキューレの騎行》と次の曲の間では引っ込まず、一礼しただけですぐ演奏。 後半はマーラー。大曲だが、さっとオケに向き直ってあっさり始める。冒頭のトランペット、とてもうまいが、音をテヌート気味に延ばして吹くのがいかにもロシア風で、これは「あっ、ロシアだ」と妙に納得する。大体どんな演奏会でも、オケの響きは休憩後にぐっとまろやかになる。楽員がベテラン中心に交代するせいか、単に緊張がほぐれてホールの響き方に慣れてくるせいか。しつこいようだが、ロシアのオケとは思えないような、柔らかくてまろやかな響き。ずっと聞いていたいような美しさだ。キーロフのオケって、こんな音やったんやね。 マーラーの第五は大好きな曲なのだが、どうも昼間のコンサートでは、必ず一度はウトウトしてしまう。第3楽章と第4楽章で少し意識が飛ぶ。その上、なぜかホールの係員が突然通路に現れてキョロキョロするので、何があったのかと色々想像を巡らして集中できず。結局、何もなかったようだ。フィナーレで、コーダに向かって指揮者がどんどんテンポを煽ってゆく所、コントラバスの人達がネックを左右にグングン振って、そこだけビッグバンドみたいになる。ノリのいい人達だ。あんなの初めて見た。 演奏の解釈どうこうよりも、オケの技術と音色に感動。このコンビの演奏はオペラのDVDしか持っていないので、これほどのオーケストラとは思ってもいなかった。それにしても、ゲルギエフはホルンの首席奏者ばかり拍手に応えて何度も立たせ、最後はオケの前にまで連れてくるが、あんなに好演したトランペット氏は、ホルン奏者の後に何度か立たせたのみ。数回のミスはあったが、そのミスがいかんという事か。それとも、ボストン交響楽団のチャーリー・シュレイターと小澤征爾みたいに何か確執があったりして。 |