正面から見てオケの左側面の席。指揮者の顔が見える位置。金聖響は、テレビなどでよく見かけるのでよく知っている気になるけれど、実際には生で見るのはまだ二度目。ちなみに最初は、モーツァルトの歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》。登場するなり茶髪になっていてびっくり。この人、インタビューでの喋り方や指揮のスタイルを見ていても、かなりナルシストっぽい。もっとも、これほど輝かしい才能の持ち主ならナルシストだろうが何だろうが結構な事だ。マイケル・ティルソン・トーマスも、デビュー当時はボストン交響楽団の楽員から「いつも髪をかきあげている生意気な小僧」呼ばわりされていた。それが、今はアメリカの文化的リーダーとまで言われている。 ブラームスの第1。冒頭から流麗な表情と早めのテンポ。明らかに、あのピリオド楽器研究を生かしたベートーヴェン演奏の延長線上にあるアプローチ。もっとも、アカデミックに硬直せず、常に音楽が生き生きと躍動しているのがいい。オーボエの女性奏者の人、ものすごく上手い。フルートもすごく上手い。中間の二つの楽章も、細部まで丁寧な音楽作り。才気を感じる。特にフィナーレ後半の畳み掛けるような盛り上げ方には、鬼気迫るものがある。しかしながら、ラストの和音はモーツァルトさながらにふんわりと減衰。ちょっと、きいた事のないような表現だ。 後半の第4番も、やはり早めのテンポで流麗な演奏。第1番ほどのインパクトは感じられない気もするが、オケの好演もあって、充実感は満点。終楽章の切ないフルート・ソロなんて、惚れ惚れしちゃう。金管、特にコーダ近くでソリッドな響きをきかせるトロンボーンも秀逸。ラストのフェルマータは、やっぱりふんわりと終了。あくまで古典として演奏したい、という事か。全体的には、やはりこの指揮者、ただ者ではないような才気を感じさす。客席からも甲高い「ブラボォオオオオオー!」の声が飛ぶ。 |