私はいわゆる“ファミリーコンサート”みたいなのにはあまり足を運ばない方だが、今回のは選曲がとても良く、インターネットで席を調べたら極上の席がバンバン空いていたのでついチケットを取ってしまった。でも、当ホール専属の団体として誕生したばかりのPACオーケストラは一度きいてみたいと思っていたのでいい機会。 劇場に入ると、一階の通常座席の両端にボックス列があるが、私が取ったのはそのボックスの最前列左サイドの一番前(それでも三千円の席)。席に座って思わずビビる。ボックスはステージの真上にまで張り出しており、指揮者を真横から見る位置になる他、ヴァイオリン・セクションが視界のすぐ下に広がる。パーカッション奏者の人とは、何度か目が合ったように思う。ステージ袖から客席全体を見渡すようなもので、観客というよりもほとんど出演者の位置だ。ちなみに、足下がちょうど出演者用の扉になっているので、指揮者も司会者もみんな私達の足下を出入りする。 指揮のヤニック・パジェは、パリ・ラムルー管弦楽団でも佐渡裕の副指揮者をしているという事で、完全に佐渡裕お気に入りの後輩といった感じ。リズムを煽るような場面では腰が重く、やや不器用な印象も受けるが、作曲家としても活躍しているだけあって、表現に様々な工夫があるのが良い。ルックスも若々しくて、子供達から見ると指揮者という職業のかっこ良いイメージにぴったりの人かも。ただ、子供向けにデフォルメしているのか、いつもそうなのか、ちょっと“振りすぎ”。細かいパッセージまで全部指揮するので、それで無駄な動きが多くなってリズムが重くなるんじゃないだろうか。 しかしこのオーケストラ、とんでもなく優秀である。結局最後まで、ミスというものを一度も耳にしなかったような気がする。特に《火の鳥》冒頭の驚くべき最弱音から、後半にかけてのヴィルトオーゾぶりを聴くにつけ、在阪(いや日本全国?)のオーケストラの中でこれほど見事なパフォーマンスを行う団体が他に幾つあるだろう、と思わず真剣に考え込んでしまった。特に、管楽セクションは大半が外国人のせいか、完璧な弱音から豊麗な強奏まで日本のオケとは思えないソノリティ。芸術監督の佐渡裕によれば、優秀な若いミュージシャンを輩出するための団体で、メンバー構成は非固定・流動的だそうだが、それではちょっともったいない気がする。 《ダッタン人の踊り》は、指揮者の上品な造形感覚が勝っている感じで、もっと突進するような勢いと粗野なエネルギーが欲しい感じ。奥村愛の演奏も初めて耳にしたが、繊細な美音で弾く人。ツィガーヌはやっぱり独創的な曲だ。ラヴェルやプロコフィエフ、ストラヴィンスキー辺りのオーケストレーションは、CDで聴いても充分凄いが、生演奏で聴くとそれはそれは魅力的なもので、いつもびっくりする。ツィガーヌはCDでもよく聴くが、ヴァイオリン・ソロが終わってオーケストラが入って来る所、あまりのエキゾティックな妖しさに思わずゾクゾクと総毛立った。《ロンドンデリーの歌》も昔から好きな曲だが、妙にこじゃれたアレンジで、コード進行が気に入らず。誰の編曲なのかパンフレットには記載されていないが、司会者も言わなかったような‥‥。 ファミリーコンサートで子供達にストラヴィンスキーをぶちかますとは、芸術センターもなかなかやるものだ。それでいいのだ。世のクラシック・ファンが全く聴かないようなライト・クラシックばかりいくら演奏した所で、クラシック・ファンが増えるわけではないだろうに。《火の鳥》は、ストラヴィンスキーにしてはまだ親しみ易いとはいえ、相当アグレッシヴな面もある曲。ただし、通しでは演奏せず、途中でアナウンサーのナレーションを何度か挿入している。司会の二人、特に喜多さんは、“おは朝”派にはお馴染みの、関西の朝の顔。巷で話題のクラシック漫画『のだめカンタービレ』を読んでいるそうだ。《火の鳥》にはブラヴォーの声が飛んだ。会場を見る限りでは子供連ればかりかと思っていたが、一般の音楽ファンもちゃんと来ていたみたい。 |