オスモ・ヴァンスカ 指揮

ラハティ交響楽団

ユホ・ポホヨネン(ピアノ)

曲目

コッコネン/《風景》〜室内管弦楽のための

グリーグ/ピアノ協奏曲

シベリウス/交響曲第2番

2006年10月8日 西宮、兵庫県立芸術文化センター大ホール

 フィンランドでラハティ交響楽団というマイナー・オケが、ヴァンスカという指揮者と共に急速な成長を遂げているとは聞いていた。シベリウスの交響曲録音が新鮮な驚きをもって迎えられている事も、雑誌などで知ってはいたが、ディスクはまだ聴いた事がなく、実演も今回が初めて。北欧の大人気作をドン、ドン、と二つ並べた嬉しいプログラム。

 一曲目のコッコネンは、曲自体まったく知らない(誰も知らないのでは?)ので何とも言いようがないが、弦と木管による小編成オケのための静かな小品。不協和音や現代音楽的な部分はなく、聴き易い。私の知る限りでは普通、そこで全員が舞台裏にはけ、ピアノをセッティングしてから再入場するものだが、今回はそのままピアノを持ってきて、角っこの奏者が立って横にどいたり、ヴァイオリンの人達が自主的に椅子ごと後ろに下がっていったりしている。フィンランド人の謙虚な性格がよく出ているような。

 ポホヨネン登場。この名前におぼこい顔立ちときてちょっぴり笑ってしまったが、経歴を見た所、かなりの実力者の様子。ポホヨネンというくらいだから勿論フィンランド出身だが、新進気鋭のピアニストなので、これから台頭してくるかもしれない。すらっとスマートな風貌からしてクールな音楽をやる人かと思いきや、冒頭から結構濃厚な表情を付けた演奏。オケもかなり細かく強弱を付けていて、グリーグの冒頭でこんな濃い表現は初めて聴いたような気がする。バリバリ弾いて華麗なピアニズムを開陳するタイプではなさそうだが、テクニックは一級かも。

 後半はシベリウス。シベリウス作品の中でも特にメジャーで、個人的にも大好きな曲だが、生演奏できくのは意外にもこれが初めて。ヴァンスカの表現は、まるで生き物のように自在に呼吸するフレージングが印象的で、テンポをむやみに動かさない代わり、強弱を相当細かく付けている。ラハティ交響楽団のピアニッシモの凄さについては聞いていたが、実際に耳にすると、この最弱音は圧巻。よく知っているはずのフレーズが、途中でふっと弱くなって最弱音まで達したりする。正に、静寂というものをよく知っている人達が奏でる音楽、という感じ。響きが又、実に素晴らしい。いかにも北欧らしい清澄な弦のサウンドは、凛とした透明感を保ちながら決して温もりを失わないし、ブラスを伴ったトゥッティも常に柔らかで、ちっともうるさくない。

 アンコールはこれもシベリウスの《悲しきワルツ》と《フィンランディア》。北欧の人気作品は全部やってあげるよという、サービス精神満点の選曲。特に《フィンランディア》への客席の熱狂は凄まじく、照明が落とされ、楽員がみんな引き上げてからも鳴り止まない拍手に応えて、ヴァンスカが一人舞台に現れた時、客席から「うぉおお〜!(ブラヴォオ〜!)」というものすごい歓声が浴びせられた。2003年から大植英次の後任としてミネソタ管弦楽団の音楽監督に就任した彼だが、世界各地の一流オケにも客演して回っていて、今後が楽しみな指揮者だ。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 ポホヨネンにコッコネン。フィンランドの人名、地名は実におもしろくて響きがかわいらしい。特に関西人には、ぐっとくる。ポホヨネンは、名前だけじゃなく、宣伝の顔写真もとびきりキューティー(でも妙に笑える)で、お守りにして持っていたいくらい。

 この日の演目は、全て北欧づくし。一年前に行ったフィンランドの風景が蘇ってきて、また行きたくなってしまった。技術的なことは全くわからないけど、フィンランドのオケが演奏するフィンランディアは、魂が入っているから、すごくゾクゾクした。

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