ズービン・メータ 指揮

イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団

曲目

ドヴォルザーク/交響曲第9番《新世界より》

R・シュトラウス/交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》

2007年3月24日 福岡シンフォニーホール

 メータとイスラエル・フィルは私にとって特別なアーティスト。83年の来日時、まだ小学生だった私が生まれて初めてナマで聴いた海外オケが彼らだったのだ。当時大好きだったメータの指揮、大好きだった《春の祭典》という事で父に連れて行ってもらったのだが、一緒に演奏されたブラームスの二重協奏曲も素晴らしかった。イスラエル本国の政情が不安定な時期で、大阪フェスティバルホールも厳戒態勢を敷いていたのをよく覚えている。

 それから何度も来日している彼らだが、なぜか聴きに行く機会に恵まれず、まさか24年後になって妻と、それも福岡で彼らのコンサートを聴く事になるとは思ってもみなかった。その事だけでなんとなく感慨深く、開演前からしみじみモードに。今回は大阪公演も行われたが、あいにくそちらは平日だったので、観光も兼ねて福岡で聴く事にした次第。私は福岡に来るのも初めてである。福岡シンフォニーホールは、雪の結晶みたいなデザインのシャンデリアがインパクト大。私達の席は三階の右サイド後方辺り。曲順が逆になったという事で、メータの直筆メッセージがコピーされて一緒に配布される。オケのメンバーは、開演前から大勢が舞台に上がって練習している。

 メータ登場。さすがに70歳も越えたせいか、一歩一歩遅々たる歩みで指揮台に向かう。そこにいるだけで貫禄を感じる体格。まずはドヴォルザーク。一時のメータは非常に淡白な、古典的造形を重視した演奏をする傾向があったが、今日の演奏はかなり濃い表現。強弱のニュアンスを絶妙に使い分け、第1楽章の締めくくりでもちょっと間を取ってポーズを決めたりして、自在な呼吸を聴かせる。オケも凄い。特にソロは第1楽章のフルート、第2楽章のイングリッシュ・ホルン、第4楽章のクラリネットなど、最弱音も駆使してみんな達者なパフォーマンス。

 生演奏では、「あれ? こんな程度のオケだったっけ?」と感じる場合と、「こんなに巧いオケだったっけ?」という場合と二通りあって、私の行った演奏会ではウィーン・フィルが前者、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスは後者だったが、今回も間違いなく後者。金管の響きも美麗そのもので、こんなに機能性の高いオケだとは思っていなかった。しかも、ホールの響きも良いのか、トゥッティでも混濁せず、美しく暖かいサウンドをキープしている。20分の休憩の間も、多くの楽員が舞台の上で練習を続けている。熱心なオーケストラだ。お行儀の悪さではその名を世界に轟かす団体だが、舞台を見ている限り信じられない感じである。

 後半のツァラトゥストラ。冒頭、芝居っ気たっぷりのティンパニも見事だが、オルガンも加えたフル・オーケストラの響きの素晴らしい事! 重量級のサウンドながら、耳に柔らかく、しかもクリア。イスラエル・フィルって、凄いオケだったのね。メータの表現は、過去に発売されたディスクと同様、早めのテンポで一気に聴かせるタイプ。ヴァイオリン・ソロが若干ながら線が細くて周囲の音に埋もれ気味なのが気になったが、このコンサートマスター、なかなかの名手。

 私の聴いた所では、二曲ともミスは全くなかった模様。《新世界》では間髪入れずにブラヴォーの嵐が飛び交い、もう少し間が欲しかったが、《ツァラ》はメータの棒が止まってしばらくの間、まったき静寂が会場を支配。素晴らしかった。その代わり即座のブラヴォーはなし。それでもカーテンコールにメータが登場するたび、会場から熱狂的なブラヴォーや口笛が浴びせられる。芸術的に高尚なイメージがないせいか、あまり有り難がられない雰囲気のメータだが、スター性はまだまだあるみたい。

 アンコールはメータが客席に向き直り、一言「ベートーヴェン!」。レオノーレ序曲が演奏された。こちらは恰幅の良い堂々たる表現で、今日はどことなく引っ込み気味だったイスラエル・フィル名物、絹のような肌触りを持つ美しい弦の響きが全開。ここに至って、やっと極上のシルキー・ストリングスを堪能した次第。会場から、又もや激しいブラヴォー。

 アンコールがもう一曲、今度は日本語で「ヨハン・シュトラウス、雷鳴と稲妻」。会場が「おおお〜っ」と湧いた所へ、クライバーのごとくそのまま演奏に突入。金管のアクセントや打楽器の効果を極端に強調した演奏だが、盛り上がった会場のお祭り気分には合ってたかも。曲が終わりきらない内に、熱狂的な拍手と声援、口笛が湧き起こる。ほとんどロックのコンサートみたい。彼がロスアンジェルス時代、地元ファンの間でロックスター並の人気があったのもうなずける。そう言えばJ・シュトラウスで思い出したが、今年のウィーン・フィル、ニューイヤー・コンサートはメータが振ったんだった。

 会場の外に出ると、大階段の踊り場の脇にある出入り口に人が並んでいる。もしやと思って見ていると、そこからオケの楽員が出てきはじめた。その度に周囲から拍手が起こる。手を振ったり、サインや握手に応じたりする楽員もいる。その内、女性の楽員がこの光景を面白がって、デジカメで撮影しはじめた。一列に並ぶ日本の音楽ファンをバックに、他の楽員と記念写真を撮ったりしている。そこへ警備員が現れ、メータ登場。一気に辺りが騒然とするも、メータは周囲に向かって愛想よく手を振り、警護されながらすぐに消えていった。一瞬だったが大指揮者、至近距離で見られて良かった。感激。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 関西公演とは日程があわなかったため、観光がてら福岡まで行きメータとイスラエル・フィルを聴くことに。福岡の街をさんざん歩いた後の演奏会だったので、よくあるパターンで疲れて寝てしまうのかと自分が心配だったけど、演奏前の音だしの段階からきれいな音が聴こえてきて、何やら良い予感。始まってみると、最初の予感どおり、う、うつくし〜とうなってしまう演奏で、疲れもふっとんでいきました。新世界は、ちょっと退屈に思う部分があるのだけど、今回の演奏は、おそらく私の好みのテンポだったようで、今までで一番好きな新世界でした。70歳のメータのパワー、恐るべし。

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