たまたま休みを貰ったらマゼールの来日公演の日だったので、急いでチケットをゲット。4階の最後列という、ホールの最果てみたいな席。ちなみに、マゼールは私が生まれて初めて覚えた指揮者の名前だが、生演奏で聴くのは今回が初めて。トスカニーニ響は、小澤征爾の音楽塾みたいな学生オケかと思っていたが、パンフレットを読んだら全然違って、イタリアのちゃんとした常設オケだった。ただし年齢制限はあって、若い奏者ばっかりみたい。 1曲目ブラームス。いきなり大曲で始まる変わったプログラムだ。オケは響きもアンサンブルも少し肌理が粗い感じはあるが、技術的にも表現力もすでに一級という印象。噂に違わぬ実力派オーケストラ。イタリアのオケらしく、よく歌うカンタービレも好印象。マゼールは、スケールの大きな曲の掴み方と、彼らしい派手な表現がほどよく共存する、見事な演奏を展開。正に芸達者という印象。録音機もカメラも入らないコンサートでは彼のアドリブ的表現がとかく話題になるが、第1楽章や第4楽章の主部を非常に速いテンポで、しかもメゾフォルテくらいで淡々と演奏させたり、コーダ部で思い切りタメを作って大見得を切ったり、マゼール、水を得た魚のよう。なぜ録画やレコーディングではかしこまってしまうのか、不思議で仕方ない。前半からブラヴォーの嵐で、楽員からも拍手や歓声、足踏みなど、派手な称賛のパフォーマンスが送られる。イタリアのオケは初めて見るが、こういうマナーが他のオケにもあるのだろうか。 後半はルーセル。この曲のみならず、ルーセルの作品自体、私は初めて聴くが、すごく変わった曲。なんというか、子供がふざけて演奏しているみたいな単純なリズムが、打楽器を中心に執拗に現れる。少なくとも、ラヴェルやドビュッシーの系列とは全然違う感じ。マゼールはこんな曲でも暗譜で指揮。こういう曲も、一度くらいレコーディングして欲しい気がする。 続いて《サロメ》。ステージが暗くなったかと思うと、男性ナレーターの声がオペラのあらすじを語り始める。少し幼稚な趣向だが、場面の雰囲気はうまく醸し出され、曲が始まった瞬間、鳥肌が立った。マゼールは《サロメ》をレコーディングしていない(というより、R・シュトラウスのオペラを全然録音していない)ので、この演目は大いに楽しみだったが、歌手の声がどうもオケに埋もれてしまって届いてこない。それが、歌手がオケと同じステージに立っているせいなのか、歌手の実力ゆえなのか、オケの音が大きすぎるのか、その辺がいまいち分からない。終演後に相当なブラヴォーが来ていたから、歌手自体は良かったのかもしれない。マゼールはここでも破格のスケールで曲を盛り上げ、大仕掛けな演奏を展開。ニューヨーク・フィルでは楽員からも熱い眼差しを受けているようだが、彼の表現は確かに、派手好きなニューヨークの聴衆と楽員にはたまらないかも。アンコールはなし。 |