準・メルクル 指揮

フランス国立リヨン管弦楽団

ジャン・フレデリック(ピアノ)

曲目

ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲

ラヴェル/ピアノ協奏曲

細川俊夫/循環する海

ムソルグスキー/組曲《展覧会の絵》(ラヴェル編)

2007年11月3日 大阪、ザ・シンフォニーホール

 リヨン管弦楽団はナマでは勿論、ディスクでも全く聴いた事のないオーケストラ。準・メルクルもテレビのドキュメンタリーやライヴでは観た事があるが、ディスクは持っていないので、きちんと演奏を聴くのが今回が初めて。《展覧会の絵》はあまり好きではないのだが、前半にフランス物を揃えた選曲と会場がシンフォニーホールという事で足を運んだ次第。今回は久々にオケ背後の座席で、前から二列目。目の前で指揮者が棒を振るので、ほとんどオケの楽員になった気分である。それにしても舞台の側から客席の一人一人が、なんとはっきり見える事。居眠りなんかも、ちゃんと見られているという事だ。

 一曲目はドビュッシー。冒頭から雰囲気満点でゾクゾクする。メルクル、早くも音色センスに才能を発揮。棒さばきはしなやか、オケも柔軟でソロが上手い。次がラヴェル。個人的に大好きなコンチェルトだ。ソロのジャン・フレデリックは風を切って颯爽とステージに登場。メルクルも似たような登場の仕方をするので、コンセプトが合っている。フレデリックはオケの方に注意を向けながら、お互いに牽制しあう感じでスリリングに演奏。メルクルが踊るように左右に舞い、鋭い棒を振り回す中、魅惑的な情感と冴え渡った音色がはじけ飛び、こちらの体も動き出しちゃうほどノリの良い、エキサイティングなパフォーマンスを展開。ラヴェルやドビュッシーは生演奏で聴くと独特のムードが漂って素晴らしい。ソリストのアンコールはラヴェルの《亡き王女のためのパヴァーヌ》。

 休憩を挟んで後半は、細川俊夫作品。同時代の音楽を聴く事がいかに重要か、色々なアーティストや評論家が書いているし、気持ちとしては同調できるが、実際に聴く行為はまた別。特にこういう少し長い曲は、聴いていてしんどいと感じるのも事実。海を表現しているのか大太鼓のとどろきが響き渡り、金管も加わったトゥッティの多彩で強烈な音響は、さすが世界に認められている作曲家の実力と感心もするが、ゆっくりとクライマックス築き、また弱音へ戻っていった所で曲が終わるかと思ってしまった。再び山場に向けて盛り上がってきた時には、少し飽きちゃったかも。長い。オケはよくこなれているというか、今回が日本初演の作品だというのに、余裕を持って楽々と演奏している印象。

 最後は《展覧会の絵》。必ずしも洗練された音色では始まらなかったが、指揮者の図抜けた演出力が随所に発揮された好演。フレーズに濃厚な表情を付けたり、大胆に間を取ったり、テンポを揺らしたり、とにかくドラマの感じられるパフォーマンスで惹き付けられた。バトン・テクニックも一級で、《殻をつけたひよこの踊り》で手をクリクリさせながらコミカルなダンスを踊りだしたのには吹き出してしまったが、運動神経はカルロス・クライバーに匹敵すると見た。なぜか《サミュエル・ゴールデンベルクとシュミイレ》の前後は一旦棒を下ろして長い間を取ったが、これも個性的なフレージングの名演。最後はブラヴォーの声が飛ぶ。日本人の聴衆は基本的に、大音量で派手に終わる曲じゃないとブラヴォーを叫ぶほど興奮はしないようだ。

 アンコールはドビュッシー《小さな黒人》の管弦楽版。これがまた、無類に小気味の良い、リズミカルで洒脱な演奏で、私がブラヴォー・マンなら間違いなくこの曲の方にブラヴォーを贈りたい。またもや聴いていて客席で踊り出しそうになってしまった(クラシックのコンサートではそういう事は稀)。実はナマでフランスのオケを聴くのもこれが初めて。フランス人はみんな個人主義者で、オケのアインザッツは揃いにくいという噂に、メルクルも「それは当たっています」とインタビューに答えていたが、縦の線の改善に尽力しているというだけあって、リヨンのオケは指揮者にぴったり合わせてよく揃っていて、他国のオケと比べても遜色の無い印象。ミスも非常に少なく、ソロがみんな達者で素晴らしい。楽壇でもっと認知されていい団体だと思う。メルクルは、とにかくバトン・テクニックに秀でているのと、音色とリズムに対する卓越したセンスの他に、歌劇場で活躍してきた指揮者特有のドラマティックな演出力が光り、大いに感心。この人はいつか必ず世界的に台頭してくる指揮者だと思った。今後が楽しみ。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 《牧神の午後への前奏曲》を生で聴けたのが良かった。この曲は断然CDより生ですね。フランスの音楽は、他の国の音楽と全然違う。パンフの写真も、団員がコックの格好をしたり美術館で撮ってたりと、なにか洒落っ気のあるパンフに仕上がっていた。メルクルは舞台袖から登場する時、いつも颯爽と風を切って現れ、指揮中も身軽によく動く軽やかな人だった。

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