マリス・ヤンソンス 指揮

バイエルン放送交響楽団

曲目

R・シュトラウス/交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》

ブラームス/交響曲第1番

2007年11月22日 大阪、フェスティバルホール

 04年から毎年来日しているヤンソンス。コンセルトヘボウ&バイエルンという、掛け持ちしている二つのオケを交互に連れてやってくるが、今年はバイエルンの番。平日の公演なので今年は聴けないと思っていたら、何と偶然に有休が入った。これは「聴きに行きなさい」という天からのお告げだと思い、慌ててチケットを申し込むも、上位二種の席以外全て売り切れ。仕方なく二番目の一万四千円と久々に高価なチケットを購入するが、それでも一階の最後尾から数列目。値段の設定、ちょっとおかしいんじゃないかと思う。もっともこのホールの場合、前の方のブロックまで行かない限り、どの席でも大体似たようなものじゃないかと思うけど。

 ヤンソンスの演奏会は、客席の雰囲気もどこか期待感に満ちていて、指揮者が登場した瞬間から何となく歓迎ムード。のみならず、1曲目から驚くべきクオリティでいきなり圧巻。特に指揮者のものの見事な棒さばき! しなやかな棒の動きを見ているだけでも陶然とさせられる。彼はクライバーの衣鉢を継ぐ数少ない指揮者なのかも。響きが浅くデッドなこのホールに負けてしまわず、パワフルなトゥッティと柔らかなタッチで聴き手を魅了するオケも凄い。後半部のヴァイオリン・ソロはホールのせいか音が遠く、ダイレクトに届いてこない恨みもあるが、やはり名演。概してソリストが優秀で、トランペットの数カ所を除いてミスもほとんどなし。終結部も、木管の和音に至るまで見事に安定したピアニッシモを持続させ、客席の度肝を抜く。

 後半はドイツ・オケの真骨頂、ブラームス。とは言っても、ドイツ南部・ミュンヘンのオケだから音色は明るく、瑞々しい。木管群、特にオーボエやフルートのソロは正に名人芸の域で、あまりの素晴らしさに拍手しそうになる。最近よく聴かれる繊細で室内楽的なブラームスだが、力強さ、雄渾さにも欠ける事なく、感興がすこぶる豊か。ステージから音楽が溢れ出てくるような感動的演奏である。これは、ディティールに至るまで一切手を抜かず、徹底して表情を付けてゆく事から生まれてくるのだろうが、そういう基本的な努力を一心に貫いているアーティストは意外に少ない。何より、指揮者・オケ共に生き生きとしていて、“音楽する”事が楽しくて仕方がないといった風情。ヤンソンスの年齢とキャリアで、なおかつ一流のオケを振って、そういうスタンスを持ち続けられるのは大変な事かもしれない。ヤンソンスとバイエルン放送響は、本当に幸福なカップルだと思う。

 曲が終わると同時に、凄まじいブラヴォーの嵐。起立を指示されても楽員達が立ち上がらず、指揮者に拍手を送る光景は、海外オケで初めて見た。とても感動的だった。アンコールは再びブラームスで、ハンガリー舞曲第5番。有名な曲だからか、始まると同時に客席がどっと湧いて拍手が起こる(こういうリアクションは聴衆の音楽レヴェルがストレートに出て恥ずかしい)。ヤンソンスは緩急をデフォルメ気味に付けて、ほとんど踊り出さんばかり。もう一曲はR・シュトラウス《ばらの騎士》のワルツの一部。彼はこの曲が好きなのか、よくアンコールに持ってくる。両曲ともメイン・プログラムの作曲家の作品で、アンコールの選曲も毎回よく考えられていて感心する。オケが引き揚げた後も拍手は止まず、ヤンソンス一人でステージに再登場。割れんばかりの拍手と歓声が贈られた。大感動の一夜。偶然この日に休暇が入ったのは、やはり天のお告げだったのだと思った。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 また今年も、踊るヤンソンス(実際は躍ってはいないけど、そう見える)に会うことができた! ヤンソンスが指揮する後ろ姿から、喜びがどんどん溢れ出してきているよう。去年よりもその前の年よりも、さらに動きが大きくなっていたようで、横幅がどーんと広いこのホールに負けない、ものすごいパワーだった。指揮者もオケも客席も、ここに集まった人達がみんな幸せな満ち足りた気持ちになれたような、そんな雰囲気の貴重な演奏会だった。

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