ケント・ナガノ 指揮

モントリオール交響楽団

曲目

ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲

ドビュッシー/交響詩《海》

R・シュトラウス/アルプス交響曲

2008年4月11日 大阪、フェスティバルホール

 指揮者もオケも生演奏は初めて。モントリオール響は、私もデュトワ時代の数々のディスクに魅了されたクチなので、今回は本当に楽しみだった。会場に入ると、半数以上のメンバーがステージに上がって練習を行っている。私たちの席は、二階のほぼ真ん中辺り。

 ドビュッシーの2曲は、ナガノの精緻な音作りとオケの素晴らしいパフォーマンスに圧倒される。世界を虜にしたモントリオール・サウンドは、決して録音技術によるマジックではなかった。それが何より嬉しい。生演奏で聴いて、オケの響きがこれほど高い透明度を保っているというのは、相当なセンスと実力なんじゃないかと思う。ティンパニを伴うトゥッティも、芯のある引き締まったサウンドながら、常に耳当たりが柔らかく、聴いていてとても心地が良い。ソロもみんな達者だが、トランペットの何でもないような走句に目立つミスあり。指揮者の音色センスも卓越していて、さすがフランス音楽を得意にしてきたナガノだけの事はある。《海》にブラヴォーの声援が飛ぶ。

 休憩の間も、結局八割方の楽員がステージで自主練習。熱心なオケだ。一転して後半は、これもナガノが力を入れているドイツ音楽。モントリオール響は今までにアルプス交響曲は録音していないようなので、なかなか珍しい聴きものだ。これもテンポ、ダイナミクス共に全体が非常に綿密に構成された演奏で、ケント・ナガノという指揮者、今後さらに大躍進が期待される巨匠候補の一人と見た。《森に入る》冒頭の尋常でない迫力にも驚いたが、その後の大胆なリタルダンド、《頂上にて》の豊かな感興とデリカシー溢れる表現、《雷雨》の場面のオーケストラ・ドライヴなど、他にも聴き所多し。

 オケがこれまた素晴らしく、ソロもアンサンブルも極上の美音である。特に魅せられたのが女性奏者一人を含むトロンボーン・セクション。威圧的なサウンドになりがちな楽器だが、彼らのは実に軽くて、柔らかくて、いい音。音程の揺れもほとんどない。私もトロンボーンをやっていたので、これがいかに凄い事かよく分かる。楽譜にオフステージの指定がある狩りの角笛は、ホルン奏者やトロンボーン奏者が一人、また一人とステージを離れ、結局首席メンバーが舞台裏に回って掛け持ちで演奏した様子。舞台に戻って吹き始めるまで、ギリギリのタイミングだった。曲が終わってしばらくの間、とても長い、素晴らしい沈黙が訪れた。この国では珍しい事だ。

 アンコールは《さくらさくら》。まるでドビュッシーを思わせる秀逸なアレンジだが、誰によるものかは不明。もう1曲は、ビゼーの《アルルの女》〜ファランドール。こちらはなぜか腰の重い、粗雑な仕上がりの演奏だと感じた。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 《牧神の午後への前奏曲》は、去年リヨン管弦楽団で聞いた時も相当うっとりしたが、今回もまたうっとり。《海》もそうだけど、フランスの洗練された音楽は、聞くほどに新しい発見があって、刻一刻と移ろっていく美しさに溢れている。

 アンコールはちょうどこの時期に合わせて《さくらさくら》。タイトルを聞いた時は、正直日本人だからってその曲はそんなに嬉しくないよ、と思ったが、演奏が始まってすぐに、今まで聞いたこともない素敵な《さくらさくら》だったので、引き込まれてしまった。こんなに《さくらさくら》が美しい曲だと思ったのは初めてでした。

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