指揮者もオケも生演奏は初めて。モントリオール響は、私もデュトワ時代の数々のディスクに魅了されたクチなので、今回は本当に楽しみだった。会場に入ると、半数以上のメンバーがステージに上がって練習を行っている。私たちの席は、二階のほぼ真ん中辺り。 ドビュッシーの2曲は、ナガノの精緻な音作りとオケの素晴らしいパフォーマンスに圧倒される。世界を虜にしたモントリオール・サウンドは、決して録音技術によるマジックではなかった。それが何より嬉しい。生演奏で聴いて、オケの響きがこれほど高い透明度を保っているというのは、相当なセンスと実力なんじゃないかと思う。ティンパニを伴うトゥッティも、芯のある引き締まったサウンドながら、常に耳当たりが柔らかく、聴いていてとても心地が良い。ソロもみんな達者だが、トランペットの何でもないような走句に目立つミスあり。指揮者の音色センスも卓越していて、さすがフランス音楽を得意にしてきたナガノだけの事はある。《海》にブラヴォーの声援が飛ぶ。 休憩の間も、結局八割方の楽員がステージで自主練習。熱心なオケだ。一転して後半は、これもナガノが力を入れているドイツ音楽。モントリオール響は今までにアルプス交響曲は録音していないようなので、なかなか珍しい聴きものだ。これもテンポ、ダイナミクス共に全体が非常に綿密に構成された演奏で、ケント・ナガノという指揮者、今後さらに大躍進が期待される巨匠候補の一人と見た。《森に入る》冒頭の尋常でない迫力にも驚いたが、その後の大胆なリタルダンド、《頂上にて》の豊かな感興とデリカシー溢れる表現、《雷雨》の場面のオーケストラ・ドライヴなど、他にも聴き所多し。 オケがこれまた素晴らしく、ソロもアンサンブルも極上の美音である。特に魅せられたのが女性奏者一人を含むトロンボーン・セクション。威圧的なサウンドになりがちな楽器だが、彼らのは実に軽くて、柔らかくて、いい音。音程の揺れもほとんどない。私もトロンボーンをやっていたので、これがいかに凄い事かよく分かる。楽譜にオフステージの指定がある狩りの角笛は、ホルン奏者やトロンボーン奏者が一人、また一人とステージを離れ、結局首席メンバーが舞台裏に回って掛け持ちで演奏した様子。舞台に戻って吹き始めるまで、ギリギリのタイミングだった。曲が終わってしばらくの間、とても長い、素晴らしい沈黙が訪れた。この国では珍しい事だ。 アンコールは《さくらさくら》。まるでドビュッシーを思わせる秀逸なアレンジだが、誰によるものかは不明。もう1曲は、ビゼーの《アルルの女》〜ファランドール。こちらはなぜか腰の重い、粗雑な仕上がりの演奏だと感じた。 |