ヘルベルト・ブロムシュテット 指揮

ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

曲目

メンデルスゾーン/交響曲第4番《イタリア》

ブルックナー/交響曲第7番

2005年2月19日 京都コンサートホール

 オケも指揮者も生演奏は初めて。ブルックナーが苦手なので、曲目を見て少し躊躇したが、安い席が取れたので来てしまった。客席から見て舞台の右サイド、オケをやや後方から見る位置の座席。指揮者の表情はよく見える。ゲヴァントハウス管弦楽団というと、何十年もの長きに渡って君臨してきた巨匠クルト・マズアの、あの旧世代のクラシック界をまんま体現したみたいな陰気な雰囲気と、いかにもドイツ的に重厚だけど、ちょっと内にこもって抜けの悪いサウンドのイメージが強かったが、入場してきた楽員達を見ると若い人が多いようで、全員揃うと何とも爽やかで好もしい雰囲気。しかめっ面をした老人ばかりのオケだと思い込んでいたが、ヴィジュアル的には早くも好感度大だ。

 1曲目のメンデルスゾーンが始まった途端、マズア時代のイメージは完全払拭。なんと柔らかくて瑞々しいサウンド! 爽快かつ暖かみを帯びた弦の響きの中から、柔かくて、芯もあるクラリネットの音がすうっと立ち上ってきたりして、もう極上のまろやかサウンド。ききはじめて数分で完全に魅了される。ブロムシュテットは、やっぱりうまい。リズムも溌剌としているし、旋律の歌わせ方が堂に入っている。フィナーレなどは、スピード感溢れる、たたみ掛けるような演奏。ブロムシュテットの棒も、前のめり気味にテンポを煽っている。見事な造形感覚。

 後半のブルックナーは、個人的に結構苦手な作曲家。このプログラムのせいで今回のチケットを取ろうかどうかかなり迷ったが、来て良かった。生で聴くと、ブルックナーもかなりイケる(愛好家の皆さんごめんなさい)。それに、この曲はブルックナーでもまだ親しみやすい方だ。ただ、みんな言う事だが、第2楽章は相当長く感じる。さらに私としては、典型的なブルックナー型スケルツォも、繰り返しのしつこさに辟易するが、全体としてはブロムシュテット入魂の熱演。特に、両端楽章エンディングの気迫はすさまじい。こちら側から見ていると、ものすごい顔をして振っている。最後の一撃なんて、棒を叩きおろすと同時に大きく口を開けて、声なき雄叫び。その様子を見ているだけで興奮するので、そういう意味ではこちら側の座席は特権的かも(音響的なバランスは悪いんだろうけど)。この人の演奏は、人格的な懐の大きさがそのまま出る感じ。演奏に愛がある。本当にいい人だ。

 満場の拍手に何度も応えた後、指揮者、オーケストラが引き上げ、大方の観客が席を立ってからも若干名の拍手が続く。そこへ、舞台袖に単身ブロムシュテット登場。帰り支度をしていた最前列の若者グループは、自分達の目前に突然現れた巨匠に驚き、立ったまま拍手を送る。誰でもきっと、ああするしかなかっただろう。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 テレビの番組で、プロムシュテットがスイスのルツェルン郊外で、静かに暮らしている映像を見た。ルツェルンといえば、私達が新婚旅行で訪れた街。ルツェルンに3泊という、日本人としてはゆったりとこの街を堪能した私達は、その映像を見ただけで、あの時見た緑や光、咲き誇る様々な花、小鳥のさえずりなどが一気に浮かんできた。あの緑に囲まれた美しい街に暮らしているプロムシュテット、ということで、見る前から少し特別な感情を持っていたのだけど、演奏を聞いて、本当に感動してしまった。曲を聞いていて、こんなに指揮者の魂のようなものを感じられたのは初めてだ。まさに、プロムシュテットがみんなを統率して素晴らしい演奏を目の前でしている、というのが、ビギナーの私にも感じられる。ブルックナーの曲は、楽器の音を聞いているのか、自然の音を聞いているのか、わからなくなるような時があった。そう感じるのはプロムシュテットだからかな。本当に生で聞けて良かった演奏会でした。

Home  Top