レハール/喜歌劇《メリー・ウィドウ》

塩田美奈子、松本進、天羽明恵、黒田博、経種廉彦、高野二郎

晴雅彦、竹澤嘉明、片桐直樹、牧野真由美、栗原剛、渡辺玲美

平みち、桂ざこば

佐渡裕 指揮・芸術監督

兵庫芸術文化センター管弦楽団、ひょうごプロデュースオペラ合唱団

演出:広渡勲

2008年6月28日 西宮、兵庫県立芸術文化センター大ホール

 実は《メリー・ウィドウ》、舞台を観るのはおろか、全曲を聴くのもこれが初めて。もちろん有名なメリー・ウィドウ・ワルツは知っているし、大好きなメロディだが、全曲盤のディスクは持っていない。レハールの曲といったら、他にワルツ《金と銀》しか知らないが、この2曲からしても、レハールが希代のメロディ・メーカーである事はよく分かるので、全曲を聴いても、きっと素晴らしいナンバーが並んでいるに違いない、と期待大。客席は、4階最前列のほぼ左端。

 この公演に興味を惹かれたのは、単純に楽しそうだし、佐渡裕の企画ならきっと面白いに違いないという信頼感から。クラシック・ファン以外の人でも、そういう人は多いそうだ。凄い事だと思う。他のどのホール(新国立劇場でさえ)も成功しなかった事を、佐渡さんは成し遂げつつある。地元の住民とホールが支え合って共存する事。ホールを中心に、音楽が街の中、生活の中に息づく事。ホール専属のオケ、通称PACオーケストラのメンバーと地域の人たちの交流をテレビで見るにつけ、クラシックにさほど詳しくない地元住民の人たちからも家族のように愛されているオーケストラって、素敵だと思う。そのメンバー達も、今期で在籍期限の三年を迎え、多くが卒業してしまうらしい。

 舞台は、冒頭の桂ざこばのサプライズ登場からして、ひたすらエンタメ精神溢れる楽しいもの。歌手達の芝居には、ちょっと時代がかって大袈裟かな、と思える箇所も無きにしもあらずだが、ミュージカル並みにコミカルかつダイナミックなダンスも見せる二人の男性歌手、地の関西弁も駆使して不思議な雰囲気を醸し出す主人公ダニロをはじめ、みんな生き生きと歌い演じているのがいい。それに、オケも歌手も技術は一級で、聴きごたえも充分。ざこば師匠も狂言まわしで大活躍。客席を大いに湧かす。そして曲も、やっぱり素晴らしい。

 日本語公演というのだけが残念だが、多くの人に楽しんでもらうには仕方のない事か。演出家は、全三幕のオペレッタを、曲順を入れ替えたりして二部構成に直し、レビュー仕立てのラストにはワルツ《金と銀》も挿入してサービス精神満点。サイモン・ホルズワースのセット美術も、舞台全体が巨大なピアノになっていたりして楽しい。適度に実験精神を入れつつも、パリのムードをちゃんと演出した、バランス感覚の良いデザインという印象。終演後、ロビーへ出ると、野外のバルコニー通路にダンサー(合唱団?)の人たちが衣装のまま並び、「ありがとうございました!」と去り行く観客達にご挨拶。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 予備知識ゼロで挑んだが、これ予備知識いらなかった。何も知らなくてもすごく楽しめた! そういう演目を佐渡さんが選ばれている、というのもあると思うが、やはりそういう工夫が随所にされていたからだと思う。同じ関西の劇場、宝塚を意識したレビュー、ざこば師匠のおしゃべり、と色々関西の味つけがされながらも、パリにいるような優雅な気分を味わえて、それと同時にとても暖かい気持ちになって劇場を後にした。これらを同時に感じれる芸術って本当にそうないと思う。

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