チョン・ミュンフン 指揮

スカラ・フィルハーモニー管弦楽団

曲目

ロッシーニ/歌劇《アルジェのイタリア人》序曲

ロッシーニ/歌劇《ウィリアム・テル》序曲

プッチーニ/歌劇《マノン・レスコー》〜第4幕への間奏曲

ヴェルディ/歌劇《運命の力》序曲

チャイコフスキー/交響曲第4番

2008年9月5日 西宮、兵庫県立芸術文化センター大ホール

 ミュンフンの指揮は一昨年のシュターツカペレ・ドレスデンに続いて二度目、スカラ座のオケは今回が初めて。スカラ座のレパートリーでもあるイタリア・オペラの曲を堪能できる素晴らしいプログラムである。しかもこのツアー、後はサントリー・ホールの二回と合わせて全部で三公演しかないので、近場で聴けてラッキー極まりない。席は三階のサイド列で、斜めからだがオケ全体がよく見渡せる。

 スカラ・フィルはジュリーニとのベートーヴェンのディスクや、スカラ座ピットでの響きを思い起こせば、あまり美しい音を出すオケではないというイメージを持っていたが、あれは劇場の響きがデッドなせいなのか、こういうコンサート・ホールで聴くとなかなか豊麗な、素晴らしいサウンド。前半の四曲は、恐らく交響曲をイメージして配置してあるのではないかと思うが、予定の曲順を入れ替えて《ウィリアム・テル》を二番目に演奏する旨のアナウンス。結果的に、この順番で良かったんじゃないかと思う。

 イタリア人というのは凄いもので、正に全身で音楽を奏でているというのか、ピチカート一つ、ビブラート一つにも、体の音楽的な動きの一環として弾いているように見える。特に弦楽セクションは、自分たちが主役だとばかり大きく波打っていて、低弦の早いパッセージなど重戦車のごとき迫力。シュターツカペレ・ドレスデンの時もそうだったので、もしかしたらミュンフンの指揮にそうさせる力があるのかもしれない。木管やトロンボーンなんかも、細かいパッセージで間を詰めて一気に駆け上がるように吹くので、これぞイタリアン!といった熱っぽい表情がもろに出てくる。特に、私の大好きな《マノン・レスコー》の間奏曲が、感動的な演奏になっていて思わず陶酔。

 後半はチャイコフスキー。前半はオケに主導権を握らせた感があったが、今度はミュンフンがコントロールした個性的なチャイコである。早めのテンポでぐいぐい引っ張りながら、細かいテンポ操作がドラマティックな起伏を作ってゆくのはいかにもミュンフン流。第1楽章の終了後に弱々しい拍手が入るが、止めて欲しい。コンサート鑑賞の慣習や作品を知らないのなら、周囲の様子を見てから拍手するべきだ。アンコールは《ウィリアム・テル》の行進曲を再び。指揮台に上らない内からトランペットに合図を出して曲を開始していた。

 スカラ・フィルの人達は、見た目にもかっこ良く、特に女性はノースリーブで胸元も大きく開いた服装の人も多く、ステージ上がリゾート地みたいになる。男性もすらっと背が高く、立ち振る舞いからして既に音楽的。それに較べると、ミュンフンはヘンなスーツみたいなのに白のタートルをインナーに着ていて、見た目が冴えないのが辛い。指揮台に上がっても、なで肩で猫背気味。お世辞にもかっこいいとは言い難いが、それで素晴らしい音楽を作るのだから侮れない。ジュリーニの弟子だったミュンフンとスカラ・フィルは、レコーディングこそないものの長い付き合いで、メンバーのほぼ全員が友人と言えるほど親しいオケなのだという。そんなオケから賞賛の拍手を送られるミュンフンは、幸せな指揮者である。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 ミュンフンさんが何も指揮をしていないような場面もあり、クラシック・ビギナーの私はあれ?と思っていたが、どうもそれだけミュンフンとスカラ・フィルの信頼関係が成り立っている、ということみたいだ。スカラ・フィルの管楽器の人は、演奏中、自分のパートが終わると横の人に何かささやいたりしていて、なんていうかリラックスムード。でも演奏は素晴らしく、音も伸び伸びしていて、これがイタリア職人芸か!とうなりながら聴いた。

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