久々のドレスデン・シュターツカペレ。三階左サイド席の一番端っこ、私の左横はすぐ舞台奥の壁で、オーケストラの背後斜め上から見る位置。指揮者や打楽器の様子はよく見える。今回は、空席の目立つのがかなり気になった。一階も両端はあまり埋まっていないが、二階は特にひどく、三分の一も埋まっていない様子。不況の影響かもしれないが、昨年11月のベルリン・フィルは大入りで席が取れない状況だったから、単なるネーム・ヴァリューの違いとしか思えない。 オール・シュトラウス・プログラムという事で、オケも最初から大編成。前回(06年)も若い楽員が多いのに驚いたが、今回は女性楽員が多いのにも改めて気付いた。ルイージは生演奏で聴くのは初めて。テレビで観てその激しい指揮ぶりに驚き、あんなに頭を振ってちゃんと音が聴こえるのだろうかと、私など少々懐疑的だったのだが、実演に接するとなかなか素晴らしい演奏である。 基本的には、しなやかな流線型の音楽作りをする人という印象。弦のカンタービレなど素晴らしく、やはりイタリア人指揮者の系列に連なる感じが強くするものの、打楽器や管楽器が突然フォルティッシモを叩き付けてくるような場面ではあまりコントラストを強調しないため、ムーティやジュリーニみたいな彫りの深い造型性はあまり聴かれない。力強さは十分あり、トゥッティは大迫力。 ドン・ファンの途中で、第一トランペット奏者がミュートを派手に落とした。前列の木管奏者が思わず振り返ったくらい。それと、指揮者のスコアがポケット版みたいに小さく、それをまた数秒ごとにめくるのでせわしない。時には一度に二ページめくったりしているので、ちゃんと読めていないのではないかとも思うが、このオケの音楽監督に選ばれるほどの人だから、数ページまとめて頭に入れながら進行するくらいは朝飯前なのかもしれない。或いは、要点だけを確認しながらめくっているのかも。 二曲目のティルは金管のメンバーがほぼ入れ替わった。管楽セクションの負担も大きいシュトラウス作品を三作も演奏するのはそれだけ大変なのだろう。曲が変化に富んでいるせいか、演奏もさらに生き生きとして表情豊か。ルイージの棒も楽想の変化をよく捉えていて、音楽的な呼吸が素晴らしい。オペラ指揮者としても活躍しているだけあって、演出もドラマティックで物語の場面を彷彿させる。ティルが捕まって絞首刑になる所など、手に汗握る迫力。 後半は《英雄の生涯》。ティルを演奏したメンバーが首席だったようだ。こちらもティルの延長線上にある音楽性豊かな演奏で、ヴァイオリン・ソロも好演。やはり横の流れを生かしたスタイルだが、大きく飛び上がったり、前に倒れ込んだり、とにかく激しい指揮。振幅の大きいシュトラウス作品にはよく合っている。響きはクリアで細部もよく聴こえるし、旋律は甘美に歌っていて、タイプとしてはシノーポリをもっともっと甘口にした感じかも。《英雄の戦い》は打楽器を抑制して、巧みに音楽を設計。 本公演では《原典版》という、最後が静かに終わるヴァージョンを使用。一般的なエンディングは作曲者が友人に勧められて変更したもので、シュトラウス自身気に入っていなかった由。ミュンヘン・フィルがこの版を所有していて、ドレスデンで使用したのはルイージが初めてらしい。というより、ほとんどの音楽ファンが初めて聴くヴァージョン(違いはエンディングだけだそうだ)だろうが、主和音を静かに伸ばしただけで特に何も起こらない終わり方で、私にはピンとこなかった。シュトラウスも結局元には戻さなかったのだから、やはり現在のヴァージョンにより強い説得力があるのだと思う。 アンコールはこのオケ得意のレパートリー、ウェーバーの歌劇《オベロン》序曲。これが凄い名演で、今日の演奏で一番良かったかもしれない。シュトラウスよりずっと古典的な枠組みの曲だが、そういう音楽の方がこのコンビに向いているのかも。特に弦楽群の、水を得た魚のように生気溢れるアンサンブルには圧倒される。このオケ自体、弦を中心に据えた作品の方がより実力が発揮できるのかもしれない。 |