今年もヤンソンスの季節。昨年はコンセルトヘボウだったので、今年はバイエルン放送交響楽団。安い席が取れず、曲目もそれほど好みではなかったので見送る事にしていたが、オークションで急遽割引チケットが出品されたので、夫婦揃って風邪気味にも関わらず会場に駆けつけた。一階席の左ブロック、前から14列目という良席。コンサートマスターは前半と後半で別の人が担当。過去二回の来日時とも違う人で、パンフレットのメンバー表をみると、コンサートマスターは4人もいた。 1曲目はベートーヴェン。五嶋みどりはピンク色のメルヘンチックなドレスで登場。コンサートではあまり見ないような、不思議な衣装。しかし、やはり激しい精神力でグングン弾く。高音部でふっと弱くなり、しなやかに伸びるフレージングなども、本当に素晴らしい。自分が弾いていない箇所でも、目をつぶってオケの演奏に身体を揺らし、常によく聴いている感じ。低弦のちょっとしたフレーズをアクセントで強調したりと、ヤンソンス流の譜読みも随所で効果を発揮。第1楽章の美しい旋律など、弦とのユニゾンでフルート奏者が左右に大きく頭を振って吹いている。 ソリスト、オケ、指揮者とも、凄い集中力。音楽への没入ぶりに心を打たれる。あまりの凄さに圧倒されたのか、拍手がフライング気味に入った。ブラヴォーの嵐。アンコールは、バッハの無伴奏ソナタ第1番第1曲。この人はいつも、アンコール曲のタイトルを言ってから弾き始める。激情が迸るように弾くのかと思いきや、意外にスタティックな表現。 後半は、ワーグナー。ドイツのオケでワーグナーとは本場物の贅沢だが、バイエルンの響きは明るく、柔らかい。《タンホイザー》のトロンボーンなども、まろやかにブレンドさせたような響き。《指輪》から、ワーグナー・テューバなど奏者が一気に増えた。 ここの所、コンサートが続いているのに二人とも風邪気味で、咳が心配だったがずっと大丈夫で来ていた。しかし、ここが年貢の収め時か《葬送行進曲》が始まった途端、喉にものすごい何かが引っかかって、私はこうなったら数十分は治らない。それがまた、特に緊張感のある、静かな場面だったので、必死に咳を抑えたため、全身が痙攣して顔が真っ赤になってしまった。トゥッティが波状に押し寄せる曲なので、フォルティッシモの所で咳をするのだが、数回の咳くらいでは全く収まらず、結局曲が終わって拍手の所で、狂ったように咳き込んだ。 次はローエングリンの第1幕前奏曲で、これは静かな曲だからヤバイな、と思っていたら突然《ワルキューレの騎行》が始まった。何とか救われた形だが、一曲キャンセルしたのだろうか。ヤンソンスの指揮ぶりはいつも激しく、素晴らしい。長い指揮棒を時折鋭く上方に振りかざすスタイルは、視覚的にもエキサイティング。時にはジャンプも辞さず、最後の一音では指揮台から大きく飛び上がった。 アンコールは、グリーグの《ペール・ギュント》から《ソルヴェイグの歌》。ヤンソンスはよく北欧の曲をアンコールに取り上げる。最初のアンコールで弦中心の静かな曲をやって、次にフルオケの派手な曲で締めくくるのも彼の定番。アンコール二曲目は、《ローエングリン》第3幕への前奏曲。数年前にもアンコールで取り上げていた曲だ。このオケのトゥッティは、いつも豊麗で、深みがあって有機的だ。体調さえ万全ならもっと楽しめたコンサートだが、それでも演奏のすごさは際立っていた印象。 |