チャイコフスキー/バレエ《くるみ割り人形》全2幕

レニングラード国立バレエ(ミハイロフスキー劇場)

ミハイル・パブージン 指揮

レニングラード国立歌劇場管弦楽団

演出:N・ボヤルチコフ

2010年1月30日 西宮、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

 ストラヴィンスキーの《兵士の物語》やミュージカルなど、一部バレエが入った舞台は観た事があるが、バレエだけの全幕公演は初体験。今回は値段も手頃で、伝統あるバレエ団のようだし、何よりも曲が大好きなので初挑戦する事にした。翌日にも《白鳥の湖》の公演があったが、どうもチャイコフスキーの三大バレエは、《白鳥の湖》も《眠れる森の美女》も音楽的に冗長で好きになれない。バレエ自体はそちらの方が見応えがあるのだろうが、曲は重要だ。座席は三階の一番左端。

 まず、オケの編成が小さい。特に弦が少ないのでボリューム感や広がりに不足し、スケールの大きさが出ないのは問題。ソフィアの歌劇場が《トゥーランドット》の公演をやった時も同じ事を感じたが、本場では普通どうしているのだろう? それに、ピットで演奏するとどうしてもそうなるのかもしれないが、オケ全体の音があまり響かないのに、打楽器だけが目立って大きく聞こえてしまうのも問題。

 指揮者は若い人のようで、冒頭の小序曲をめちゃくちゃ速いテンポで始めて、オケのアンサンブルが乱れ気味でヒヤヒヤした。そうかと思うと、《アラビアの踊り》や《こんぺいとうの精の踊り》など、異様なほど遅いテンポの曲もある。各舞曲のエンディングを、大袈裟な程のルバートで締めくくるのも独特。それが、バレエの舞台での慣習なのか、今回の振付けに合わせた特有のテンポ設定なのか、何ぶん初めてなもので判別し難い。

 はっきりと違和感を覚えたのは、おもちゃの兵隊とねずみの戦争の開始を表す銃声が、大砲に置き換えられていた所。書き割りに描かれた大砲の絵から煙が出ると同時に大太鼓を打ち鳴らすのだが、ここは銃声の方がドラマティック。それと、《雪片のワルツ》の子供コーラスはどうするのかと思っていたら、なんとスピーカーから人声風のシンセサイザーの音が! いいのか、そんなんで(これも通常のバレエ公演はどうしているのだろう?)。

 舞台の上は楽しい演出。若手ソリスト中心というバレエ自体も良く、途中で退屈するかと心配していたがそんな事はなかった。子供や玩具がメインなので、振付もやんちゃな感じで笑える箇所がいっぱい。バレエの醍醐味である優雅な美しさとは少し違うのかもしれないが、ビギナーには分かりやすくて良かった。くるみ割り人形は、ドイツなどで売られている本物のそれとはイメージが少々違って、赤い制服の兵隊といった印象。クリスマスツリーが大きくなってゆく所とか、半透明の幕を使った雪の表現なんかは、よく考えられた演出だった。

 今回、バレエとして鑑賞して初めて気づいたのは、この曲の構成が後半、完全にレビュー形式になっている事。CDで聴いても勿論そうなってはいるのだが、踊りが付くと特にその印象が強い。それと、本編自体は《パ・ド・ドゥ》で一旦終わっていて、それ以降の曲がアンコールのようになっているのも、新しい発見だった。こういうのは、実際に舞台に接して、客席の拍手が入ってみないと分からなかったかも。

 それにしても、海外カンパニーの引っ越し公演で、オケの演奏にがっかりする事が多いのは何としたものか。ウィーン国立歌劇場やスカラ座などは、映像で観る限りはピットのオケもフル編成に近いように見えるのだが、それほど有名でないバレエや歌劇場ではオケの規模縮小が普通なのか、それともこのホールのオーケストラ・ピットが狭いのか、真相を知りたい所である。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 出てくるのが、子供や人形、ねずみなどで、振付けがおもしろくて楽しめた。人形っぽい動きが、時々ナイナイの岡村さんに見えたり、江頭さん(ぴたっとした衣装なので尚更!)に見えたりして、ちょいちょい笑ってしまった。きれいな衣装を来た美男美女の正当派な踊りの見せ場もちゃんとあり、ビギナーには持ってこいのバレエだったように思う。

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