サカリ・オラモ 指揮

ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団

諏訪内晶子(ヴァイオリン)

曲目

マーティンソン/オープン・マインド

ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番

マーラー/交響曲第1番《巨人》

2010年2月28日 西宮、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

 初めて生で聴くオケはワクワクする。ストックホルム・フィルは私の好きな指揮者アンドリュー・デイヴィスと録音を残しているので、ディスクの上では既知の団体だが、ナマではお初。本人達にとっては名誉な事だろうが、オランダのコンセルトヘボウ同様、王室から“ロイヤル”の称号を貰って、長ったらしい上にローカル色の希薄な名称に変わって残念。ロイヤルはもうやめて欲しい。ちなみに指揮者のオラモに関しては、ディスクですら一度も聴いた事がない。座席は一階右サイド席の前方ブロック最後列。舞台に非常に近い、良い席。

 メンバー登場。みんな、体が大きい。客席の日本人達が小柄すぎるのかもしれないが、オケの人達がひと周り大きなサイズに見える。1曲目はどうせ現代音楽で理解できないだろうと思っていたら、まるでハリウッドの映画音楽のようにスリリングで色彩的な作品。理解はともかく、退屈はしない曲だ。とかく拍節感がなくてリズム不在になりがちな現代音楽にあって、指揮者も(少なくとも視覚上は)二拍子系の分かりやすいリズムを刻んでいる。オーケストレーションも多彩でダイナミック。

 スウェーデンの作曲家ロルフ・マーティンソンは、オラモと同世代らしいが、何と既に100曲もの作品を書いている由。当曲は、元々コンサートのオープニングを想定して作曲されているという。確かにツカミには最適な曲だ。オケは、深々とした素晴らしい響き。豊麗で、耳当たりが柔らかく、思わず聞き惚れてしまう。特に弦が美しいが、繊細な木管群や、ジージーと唸るコントラファゴットのおっちゃんもナイスプレイ。オラモの指揮もメリハリがきいて、棒さばきも流麗。

 二曲目はブルッフ。意外にもナマで初めて聴く曲。個人的にはメンデルスゾーンやサン=サーンスのコンチェルトよりも好きである。諏訪内晶子を聴くのは2007年の北ドイツ放送響の来日公演以来二度目だが、さすがの貫禄。音に厚みがあって豊かに鳴るし、節回しや切れも良く、第3楽章なども力強い表現で客席を圧倒。音色自体が、ストックホルム・フィルの弦の響きとよく合っている。アンコールはバッハの無伴奏ソナタ第3番のラルゴ。彼女は舞台に登場するたびにオケに向かって拍手を送り、自分一人が拍手を受けるのを良しとしない様子。

 後半はマーラー。編成も増えて大いに期待したが、第3楽章までは響きに雑味が混ざるようで、マーティンソンの時のクリアで柔らかなサウンドは失われた感じ。表現に集中力を欠く面もあり、木管など細かいミスが連続。少々力み過ぎたのかも。自在なテンポ変化でうまく構成した演奏ではあるが、本調子ではないような印象を受けた。この曲は、昨年11月にシャイーとゲヴァントハウス管の驚異的名演を聴いたばかりなので、余計に分が悪い。

 第4楽章ではやっとフォーカスが合ったようで、滑らかな美しい響きが戻ると同時に、造型も一段引き締まった。オラモは優秀なヴァイオリン奏者出身のせいか、旋律線の描き方が素晴らしい。オケ全体を一つの楽器のように大きく掴み、室内楽的に動かしてゆく所、誰かに似ていると思ったら、バーミンガム市響で彼の前任者だったサイモン・ラトルとそっくり。ただ時折、音を短く切って息の短いフレージングを盛り込むのが気になる所。ラストはホルン・セクションと、その後ろに配置したトランペット、トロンボーン各一名のグループをスタンド・プレイさせ、徐々にアッチェレランドをかけて巧みに音楽を煽り、熱っぽく終了。ブラヴォーの嵐が飛んだ。

 アンコールは、オラモ自ら英語でアナウンス。シューベルトの《ロザムンデ》からバレエ音楽第2番。こういうロマン派の、軽妙な味わいが出る曲は彼らに合っているみたい。マーラーよりよほどいい演奏。次は「皆さんのために何か日本の曲を」と言って早春賦を演奏。誰のアレンジかは分からないが、転調を繰り返したりビブラフォンのソロ・パートがあったりと、ジャズっぽい要素もあるシャレた編曲で、オケも弦の美しさで大いに聴かせた。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 オケのメンバーの体がみんな大きくて驚く。全体的に大きいけどスマートで、さすがに燕尾服がよく似合う人々なのだ。その大きな体から出てくる音楽もさすがに何か一味違う響きに聴こえる。「オープン・マインド」が、特に良かった。

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