エサ=ペッカ・サロネン 指揮 

フィルハーモニア管弦楽団

ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)

曲目

サロネン/ヘリックス

チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲

シベリウス/交響曲第2番

2010年5月29日 西宮、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

 個人的には、94年のロスアンジェルス・フィルとの来日公演以来16年振りのサロネン。ここ数年の欧米での活躍をみるに、今、最も目が離せない才能豊かな指揮者の一人だと思う。同世代やもっと上の世代の指揮者と比べても、彼の才能は抜きん出ているという感じ。オケは、今回が初めての生演奏。ヒラリー・ハーンも初めて。座席は、二階右サイド・バルコニー席の最もステージ寄り二列目。コントラバスと金管セクションが少し隠れる他は全体がよく見える良い席。当夜はツアーの初日。

 管楽器をはじめ、多くの楽員がステージ上で既に自主練していて、コンマスが入ってくるまで拍手なし。1曲目はサロネンの自作。彼の曲は無調でも前衛的でもなく、聴きやすいものが多い反面、特に面白くもないのが残念。今回のは短い曲で、エンディングに向かって白熱する所は曲・演奏共に迫力があったが、何度も聴きたい感じとはいえないかも。

 次はチャイコフスキー。赤いドレスで登場したハーンは、弾き始めた途端に客席を魅了してしまった。彼女の技術面での高度さは既によく知られているが、演奏全体のニュアンスの豊かさや音の美しさ、聴き手を惹き付けるような魅力など、全てにおいて若手ヴァイオリニストの中でもトップクラスという感じ。特に第1楽章のカデンツァは、最弱音で最高音という箇所が連続して、客席も固唾を飲んで聴き入るという凄まじい演奏。透明感のある美音もサロネンの伴奏と方向性が一致していて相性抜群。彼女のチャイコフスキーは新譜が出たばかりだが、できればサロネンと録音して欲しかった。激しいブラヴォーに応えて自らアンコール曲名を告知。バッハのブーレ。

 後半はシベリウス。サロネンは、フィンランドの指揮者には珍しくシベリウスの録音が少ない人で、有名な第2交響曲も。近年ロス・フィルとのライヴがグラモフォンからインターネット配信されるまで録音していなかった。細部に渡って仕掛けの多いこのライヴ録音と比べると、今回のは堂々たる正攻法で雄大に盛り上げた印象。サロネンの指揮ぶりは時に激しく燃え上がる、圧倒的なパフォーマンス。時折アインザッツが乱れる箇所もあったが、オケも美しい響きで好演していて、コンサートマスターの熱っぽい没入ぶりを始め、ヴァイオリン群の厚みのあるサウンドが素晴らしい。

 フィルハーモニア管は、ロンドン五大オケの中でも特にドイツ、イタリアの指揮者と縁が深かったオケで、創立当初からR・シュトラウス、カラヤンやフルトヴェングラー、クレンペラーといった巨匠が関わっている他、トスカニーニ、カンテッリ、ジュリーニ、ムーティ、シノーポリなど錚々たるイタリア人指揮者も歴代の首席指揮者等に名を連ねていて、他の英国オケとは少し毛並みが違う。今は若い楽員も多く、金髪の女の子が弦楽セクションの最前列で体を揺すっていたりするけれど、録音できく格調高いサウンドは健在だった。

 熱狂的なブラヴォーに応えてサロネン自ら口頭で告げたアンコールは、これもシベリウスの《ペレアスとメリザンド》から《メリザンドの死》と、カレリア組曲から行進曲の2曲。楽員がステージを去っても根気よく拍手が続いていたが、先日のティーレマン同様、サロネンも最後まで再登場してくれなかった。すぐに楽屋へ戻ってしまったのだろう。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 サロネン、舞台袖から指揮台に行くまでの間も、すでに棒でリズムをとってるような動きを見せながら、軽やかかつ足早に登場。なかなか若々しく頼もしい感じだ。指揮スタイルはそんなに激しくないと思っていたが、所々異常にエキサイティングなサロネンであった。

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