芸文センターも開館からほぼ五年が経ち、オケにも新しいメンバーが続々参入。定期演奏会も今月から新シーズン開幕で、記念すべき初回はついにホルストの《惑星》が登場。佐渡さんは名門スイス・ロマンド管弦楽団とジュネーヴのコンサートでこの曲を演奏したりしているが、オケの編成が巨大で特殊なせいか、なかなか演奏されない曲である。私が初めて親しんだクラシック作品で、ずっとコンサートで聞きたかったのだが、生演奏に接するのはこれが初めて。座席は三階の最前列右端。 まずは武満作品。武満徹の曲も好きだが、生演奏は初めて。ただし、これはちょっとしんどい作品。プログラムには35分とあるが、実際には40分以上かかった感じで、短い曲が多い武満作品の中では相当な大作だと言える。色彩的にも、打楽器のソロが多いのでモノトーンの印象で、武満徹らしい繊細で官能的な音響美は控えめという感じ。1990年、ニューヨークのカーネギーホール100周年を記念して依頼された曲で、ネクサスは初演メンバー(指揮は小澤征爾)。武満徹は当て書きというか、個々のミュージシャンに対して作曲する人なので、いわばネクサスのための曲だともいえる。 尺八のようなフルートのソロで始まり、オケのイントロが終わると、客席を通って打楽器を叩きつつネクサスの五人が登場。それぞれ自分の持ち場に配置された色の衣装を着ている(衣装も作曲者の指定だという)。彼らがそれぞれの打楽器セットの前にたどり着くと、オケと打楽器、それぞれの対話が始まる。これが、延々と続く。 舞台の左右に一本ずつ立てられたスタンドからは三階席に向かって五色のリボンが伸びていて、それを引っ張ると巨大な風鈴のような金属打楽器が音を立てるという、神秘的な手法も導入。この打楽器は、丁度私たちの真下に吊り下げられていた。ラストはこの打楽器が完全に鳴り終わった所で終了。正に、全身を耳にして音に集中する曲だが、こういう曲での集中力は20分くらいが限界だろうと思う。それでも、演奏が終わるとネクサスの五人に盛大なブラヴォーが飛んだ。 後半は待望の《惑星》。演奏を聴いて、なぜこの曲があまり生演奏されず、ライヴ録音も困難と言われるのかよく分かった。ディティールをクローズアップするのが難しいのだ。ほとんどスタジオ録音のための曲と言えなくもない。特に今回の演奏では、トゥッティになると金管のディティールが埋もれがちで、初めてこの曲を聴く人には旋律線が伝わりにくいかも、と思った。 トップ・プレイヤーには東京交響楽団のコンマスを初め、十人のプロが他団体から参加。新メンバーも加わったせいか、アンサンブルにはやや乱れがあり、テンポの遅い佐渡さんの棒も手伝って、やや無骨で、ガタガタする演奏。それでも目立ったミスはないし、曲の性格もよく伝えていて好印象。迫力も凄い。二人のティンパニ奏者のタイミングがやや前のめりになる傾向があって、そのせいでアインザッツが乱れるのかもしれない。初めて生演奏で聴く《惑星》としては、十分満足。 コーラスはロビーで歌っているようで、舞台とは反対方向の上、距離があるためオケと融合しないのはデメリットだが、サラウンド的な面白さはあるし、段々遠ざかってゆくラスト(歌いながら歩き去っていったのかも)も神秘的な効果が抜群だった。シンプルな歌唱スタイルも曲に合っていて良い。演出的にも1曲目の武満作品と呼応していて(打楽器が入ってきて、合唱が去ってゆく)、コンセプトとしてぴったりだった。 アンコールは、「新しいメンバーが入ったので」という事で、管楽器と打楽器のセクションのみで同じくホルストの吹奏楽のための第2組曲第1楽章。ブラスバンドの世界では有名な曲で、私も昔から知っているので懐かしい。勿論、吹奏楽編成とは少し違う(木管が少ない)が、学生団体とは比較にならぬ見事なアンサンブルで、ユーフォニウムのソロなどひたすら素晴らしい。二曲目は、「じゃあ今度は弦楽器」との一言に会場から笑い。セントポール組曲の第1楽章。スーパーキッズ・オーケストラの大人版だ。 |