ズービン・メータ 指揮

イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団

曲目

ストラヴィンスキー/バレエ《春の祭典》

マーラー/交響曲第1番《巨人》

2010年10月30日 大阪、ザ・シンフォニーホール

 チラシにホール初の曲目というコピーが入っているが、本当だろうか。こんなメジャーな作品二曲が今までこのホールで演奏されてなかったなんて、信じられない。個人的に、今回はとても感慨深いコンサート。人生初の海外オケ体験が、大阪フェスティバルホールにおける彼らの83年公演だったのである。しかも曲が今回と同じ《春の祭典》。小学生だった私は、その27年後に妻と一緒に同じ指揮者、同じオケで、同じ曲を聴く事ができるなんて夢にも思っていなかった。ちなみに、当コンビの生演奏は福岡での2007年公演に続き三度目。

 座席は三階左サイドで、舞台全体を斜め上から間近に見渡せる良席。入団に国籍を問わないので顔ぶれが国際的と言われてきたこのオケも、メンバー表を見ているとやはりユダヤ系の名前が多い印象。そんな中、ひときわ目に付くのがティンパニ&パーカッションを担当している若い邦人男性。日本人はどうも体の軸が定まらないというか、歩き方がフラフラしているので遠目にもすぐ分かる。顔までははっきり分からないが、雰囲気が俳優の松山ケンイチと似ているので、勝手に松ケンと呼ぶ事にする(本当の名前はカンベ・ミツノリさん)。

 メインを二つ並べたような凄いプログラムで、1曲目からいきなりハルサイ。メータの存在感が尋常ではない。ゆっくりと貫禄たっぷりに歩いてくるせいかもしれないが、指揮棒を上げる前にオケ全体を見渡す際、こちらの客席もじろりと睨んだように見えた。ものすごい眼力である。加えて、メータは暗譜で指揮。幾ら現代を代表する名曲とはいえ、彼の世代のベテランでこの複雑なスコアを暗譜している人はそう多くないのではないかと思う。

 オケは熱演。管楽器のソロも見事だが、今までに生で聴いたデュトワ/チェコ・フィルやヤンソンス/コンセルトヘボウ管の演奏と比べると、重量感や迫力、アンサンブルの精緻さなど、全てにおいて抜きん出ている感じ。松ケンはティンパニのサブ席に座って他の打楽器も担当。《賢者の行列》でギロを必死にこすっている時は、あまりの懸命さにちょっと笑えたが、《いけにえの踊り》などではメインの奏者共々切れの良いパフォーマンスが炸裂し、自然と打楽器セクションに目が行く。

 若い頃からこの曲を得意にしているメータの棒は、まったく見事のひとこと。特に激しく振りまくる訳ではなく、むしろ冷静にリズムを刻んでいるが、ラストに向かって絶妙のさじ加減でテンポを煽ってゆく所はスリル満点、最後の一撃と共にブラヴォーの嵐が飛んだ。後ろの席の人達が「あの不協和音がたまらないんですよね〜」と感激しているのが聴こえてきた。

 後半はマーラー。今日はツアー初日のせいかミスが結構多いのだが、演奏全体が素晴らしいのでさほど気にならない。第1楽章の提示部はリピートしなかったが、第2楽章の前に《花の章》を演奏したので、結果的に全体の演奏時間が延びた。通常は挿入されない《花の章》、生演奏で聴く事ができたのは貴重な体験かも。後ろの席の人も「花が香るようなロマンティックな感じがたまらないんですよね〜」と感激していた。

 終楽章に至って感心したのが、例の松ケン君。ここでもサブ的な役割でティンパニを受け持っていたのだが、所々ですこぶる鋭い打撃をかまして客席を驚かす。コーダではとち狂ったように激しく連打する場面もあり、又もや客席を圧倒。この曲ではもうメインの奏者を食ってしまった印象で、間違いなく彼は本日のMVP。後ろの席の人も「あの日本人、なかなか切れが良くて頑張ってますよね〜」と感激していた。

 暗譜で振るメータの棒さばきは凄まじく、フィナーレではほんの僅か前のめり気味にテンポを煽ってゆき、クライマックスを熱っぽくスリリングに盛り上げる手腕に脱帽。昨年に京都で聴いたシャイー/ゲヴァントハウス管の熱演に勝るとも劣らぬエキサイティングな《巨人》だった。こちらも激しいブラヴォー。ゆっくりと出てきては帰るメータ、1曲だけアンコール。彼が自ら告げた曲名はムソルグスキー/歌劇《ホヴァンシチナ》前奏曲。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 春の祭典では、第1ティンパニの人が大活躍でかっこいい! 一音一音決め決めである! その横の日本人ぽい第2ティンパニの人は何もしてない時が多く、まだまだこれからの人なのかな〜、これから頑張れよ!と勝手に龍之丞氏とエールを送っていたら、次の曲では、第1ティンパニの人が目に入らないほどの熱演を繰り広げ、見事に大ブレイク!(私達の間で。) 本当はできる人だったのだ! イスラエル・フィルの中で、あれほどのどでかい音を出した彼がとてもまぶしく見えたし、同じ東洋人として妙に嬉しくなった!

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