6月のメト来日以来、私達にとっては二度目の海外メジャー・オペラ引っ越し公演。しかし、やはりというか、残念ながらたくさんのケチが付いて残念な公演になってしまった。指揮者が新進で、各公演に一人ずつスター歌手を配した体裁だっただけに、その歌手が三人共キャンセルというのは、正に致命傷。《清教徒》のファン・ディエゴ・フローレスと《カルメン》のヨナス・カウフマンは喉の休養、手術でキャンセル。極めつけは《エルナーニ》のサルヴァトーレ・リチートラで、シチリア島のスクーター事故で重体という記事が新聞に出た後、現地時間の9月5日に逝去という痛ましいニュースが入ってきた。若く、将来を期待されていた歌手だっただけに、衝撃を受けた。 結果的に売りを欠くラインナップになったにも関わらず、チケットの払い戻しや一部返金に応じないというのは大問題(プログラムは無料配布されたけど)。この顔ぶれで、このクラスの歌劇場で、スターを配したスカラ座やメト、ウィーン国立歌劇場並みの法外なチケット代を払わなければならないというのは、ほとんどの観客にとって納得がいかない事態だろう。そのせいか、二階席より上は空席だらけだった。 東京文化会館は今回が初めて。慣れない道行きのせいでギリギリに到着し、最初30分ほど汗が止まらなかった。私達の座席は五階サイド席で、やはり舞台からは相当の距離があるが、メトの時の名古屋の劇場が余りに酷かったため、かなりマシに感じる。少なくとも、ピットや指揮者はちゃんと見える。このツアーは、最初にびわ湖ホールで2公演あって、東京では既に数公演が終了しているが、《エルナーニ》はこれが初日。演奏はなかなか良かった。 パルンボの指揮は熱血系で、ぴょんぴょん飛び跳ねたり、舞台の上を鋭く指差すような仕草が多い。イタリア・オペラには、表現上も視覚的にもよくハマる指揮という感じ。歌手も好演で、代役のアロニカが物凄い声量を示す(時に緩急も欲しくなるけど)他、イタリアを代表する二人のベテラン、フロンターリとフルラネットが出ているので、実に聴き応えがある。特に、フルラネットは客席から嵐のようなブラヴォーを浴びていた。むしろ、紅一点のテオドッシュウが、存在感の点で今一歩前に出ないのは、曲のせいか、キャスティングのせいか。印象に残ったのはコーラスの優秀さ。特に男性合唱の曲はリズムもアクセントも生き生きとしていて、アインザッツもよく揃っていた。 《エルナーニ》は初めて聴いたオペラだけど、どうもピンと来ない。初期ヴェルディの悪い所が全部出ている感じ。様式的だし、バカっぽい能天気な旋律も多いし、どんな場面でも例のズンチャカチャッチャ〜が始まるのは頂けない。主役が交替したとはいえ、他のオペラだったらこの配役でもっとエキサイティングな舞台になったかも。唯一、格調高くスケールの大きな美術セットと衣装に救われた印象。これぞ、オペラの国イタリアの底力か。 |