東京に一泊してボローニャ2日目。本日も総裁から幕前に挨拶あり。《カルメン》はタイトル・ロールのスルグラーゼ以外、主要キャストがみんな交替。喉の調子が悪いという、仮病としか思えない理由で降板している人もいるが、放射能の影響は確かに深刻で、日本人ですら政府もメディアも信用していないのだから、彼らもはっきりそう言って断ればいいのだと思う。ホセを歌う筈が喉の手術で降板したヨナス・カウフマンは、6月のメト来日の時ははっきりそう表明していたが、今回と、続くバイエルン国立オペラの舞台を降板するに至って、「原発が怖いせいじゃないよ」というようなコメントを寄稿(まあ仮病で手術を受ける人はいないでしょうけど)。 座席は左側に移っただけで、やはり五階サイド席。舞台背後のホリゾントなどは見切れてしまう席である。マリオッティの指揮は昨日のパルンボと対照的で、しなやかな叙情性を持ち味にした表現。本人も語っている通り弱音を重視したコンセプトなので、感情の爆発や劇的な盛り上がりを期待する向きにはやや物足りないかも。ただ、オケは上手く、木管ソロの繊細な表現など素晴らしい。 歌手も悪くはないが、どうも強い個性には欠ける印象。スルグラーゼにとっては当たり役のカルメンだが、五階席には彼女がやっているらしい緻密な演技も伝わりにくい。そんな中、遠目にもニュアンス豊かで存在感があったのがミカエラのコッラデッティ。やや立派な体格から発せられる豊かで美しい声は素晴らしく、カーテンコールで他の歌手ほどブラヴォーが来なかったのは意外だった。 昨日の公演でも感じたが、合唱の統率がよく取れていて優秀。カーテンコールでも大きな拍手と声援を送られていた。歌の国イタリアだけあって、合唱団員のレヴェルも高いのだろう。又、日本から参加した児童合唱団の生き生きとした好演が目を惹く。歌だけでなく、演技面でも舞台を華やかに盛り立てていて貢献度大。カーテンコールで、スルグラーゼと主要キャストが子供達を前面に連れてきて拍手を受けさせたのは感動的だった。「今の日本で、この子達は懸命に頑張っているんですよ」と言ってくれたようで、何だか涙が出そうになる。 演出は、舞台を90年代のキューバに置き換えたラトビアのプロダクションで、ユニークではあっても決して前衛的ではないので、さほど違和感なく観られるのがいい。昨日の《エルナーニ》もそうだったが、背景の絵でうまく奥行き感を出していて、波止場の向こうに沈む夕日なども効果的。闘牛士がボクサーになっていたのはびっくりしたが、酒場や密輸の場面などはオリジナルとそう大きな違いもない感じ。ただ、スペイン情緒みたいなものは確かに消されていて、衣装などもヴィヴィッドな色彩で南米チック。スコアはアルコア版で、セリフを最小限にカットし、音楽のカットは逆に減らしているとの事。 |