アントニオ・パッパーノ 指揮 

ローマ・サンタ・チェチーリア管弦楽団

曲目

ロッシーニ/歌劇《ウィリアム・テル》序曲

ヴェルディ/歌劇《アイーダ》前奏曲

ヴェルディ/歌劇《運命の力》序曲

リムスキー=コルサコフ/交響組曲《シェエラザード》

2011年10月2日 京都コンサートホール

 オケも指揮者も始めての生鑑賞。京都のホールは随分久しぶりだなあと思って記録を見返したら、最後に来たのがちょうど二年前、シャイー/ゲヴァントハウス管の来日公演だった。パッパーノについて初めて知ったのは90年代、彼がベルリン・フィルに客演した定期公演をなぜかNHKが放送した時。インパクトの強い名前なので覚えていたが、まさかかつての名門ローマ聖チェチーリア音楽院管をメジャー・レーベルの表舞台に引き上げ、アラーニャ&ゲオルギュー・コンビを看板にオペラを次々録音して名前を挙げるなんて、その頃は想像だにしていなかった。座席はオケ背面の後方席。周囲はなぜか学生が多いが、この中のどれかの曲を吹奏楽で演奏でもするのだろうか。

 プログラムは前半がイタリア・オペラ序曲集で、後半がロシア物。どこかで見た構成だと思ったら、チョン・ミュンフンがスカラ座のオケと来日した時と同タイプだった。オケ登場。スカラ座やボローニャ歌劇場のオケもそうだったが、ノースリーヴの女性楽員率が高い気がする。気のせいかもしれないが、服装もファッショナブルな印象である。コントラバスにも、ロン毛のイケメン楽員がいたりする。パッパーノ登場。意外に小柄な人で、イメージと違って少し驚く。

 まずは《ウィリアム・テル》。チェロのソロがいきなりうわずるミス。全体的に抑制が効いた演奏で、有名な行進曲も上品に処理した感じだが、次の《アイーダ》で雰囲気が一変。燃え上がるような熱い演奏を展開し、迫力満点のクライマックスに早くもブラヴォーが飛ぶ。さらに《運命の力》がまた凄い演奏で、スリル満点。パッパーノの棒は緩急のコントラストが強く、オケが一気呵成に速いパッセージを切り抜けた後の全休止など、沈黙の深さが尋常ではない。又、木管の旋律など、まるで歌手のように表情豊かに歌わせ、コーダでは段階的に速度を増して音楽を煽る。ラストの一撃の前に長めの間を入れるのも効果的で、聴き手をエキサイトさせるコツを熟知している感じ。

 後半の《シェエラザード》は、面白い表現も随所にあるものの、前半ほどの生気には乏しい印象。オケは木管のリードミスなども多いが、艶やかな音色と充実したマスの響きで好演。名門の名に恥じない、優秀な団体だと思う。イタリアでは数少ないシンフォニー・オーケストラだけに、貴重な存在だ。パッパーノの特色が出て来るのは、旋律を心ゆくまでロマンティックに歌わせた第3楽章と、猛烈なスピードで切っ先鋭く突進してゆく第4楽章。ただ、どうもこの曲は、誰の演奏で聴いてもライヴらしい感動に乏しいように思う。これは、作品に原因があるのではないか。

 彼らが俄然生気を取り戻したのは、アンコールで演奏したプッチーニ、《マノン・レスコー》の間奏曲。うねるようなカンタービレの情感と熱い感情の高まりが素晴らしい。個人的に大好きな曲で、ミュンフンとスカラ座も正規プログラムに入れていた。パッパーノは、腕を体の幅よりもあまり外へ広げない指揮ぶりだが、左右の手が交互に上下する複雑な動きがユニークで、旋律線を大掴みに操る手腕はさすが。歯切れも良い。指揮者もオケも、イタリア物を演奏している時とそれ以外では全く別人、という印象を受けた。

 アンコール2曲目もイタリア物。ポンキエルリの《時の踊り》ラスト部分で、これはオケのアンサンブルが終始ズレているように聴こえたのだが、最後のフェルマータの前にまた長めの間を挿入して爆発力を高め、客席から熱烈なブラヴォーを巻き起こした。これは、他の指揮者もやると良いテクニックかも。

まちこまきの“ひとくちコメント”

 アンコールの《マノン・レスコー》がとっても良かった! 空席が目立ってたのは残念だったが、パッパーノの指揮は、全力投球というような熱い指揮ぶりで、全体的にもなかなかの好演だったと思う。

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