指揮者もオケもソリストも生で聴くのは初。数年前に同じ顔ぶれで来日した時はドヴォルザークのコンチェルトとシューマンの第2交響曲だったと思うが、安い席のチケットが初日に売れてしまって諦めたので、今回はリベンジ。二階右サイド席で鑑賞。 アメリカの指揮者が苦手な私としては、ジンマンはT・トーマスと同様、例外的に好きなアメリカのアーティスト。師匠がモントゥーという事や、ヨーロッパで活躍しているイメージが強いからかもしれない。若い頃の彼はオランダでの活躍が目覚ましく、オランダ室内管やロッテルダム・フィル、コンセルトヘボウ管を振って、当地のレーベル、フィリップスから多くのレコードを出していた。曲目も意欲的で、R・コルサコフの珍しい作品集が3枚、ドリーブの《コッペリア》全曲に、グノー、ショパン、フォーレ、デュカスなど、あまり他人がやらない録音を積極的に行っている才人、というのが当時の印象。トーンハレ管の首席指揮者になった時も彼らしいなと思ったけど、ここまで注目される人になるとは想像していなかった。 オケは、圧倒的に若いメンバーが多い印象。どこのオケも若返りは進んでいるが、この団体はむしろ若者中心という感じで、名物プレイヤーみたいな年配の楽員がほとんど見当たらない。ジンマンとヨーヨー・マ登場。ショスタコの2つのコンチェルトは、数少ないメジャー作曲家のチェロ協奏曲の中でも特に好きな作品。もっと演奏されて欲しい。特に、長いカデンツァのような第3楽章や、一体どこへ連れてゆかれるのかという不思議な音楽が唐突に挿入されるような場面は魅力的。ソリストの特質に合った曲かどうかはよく分からないが、何せ技巧は完璧だし歌心もあるので、どんな曲でも観客を沸かせる事ができるのはスターの証。 後半はマーラー。レコーディングもしていてこなれた演奏だが、全体としてあまりにオーソドックス。ジンマンの指揮姿は今まで映像でも観た事がなかったのだが、いかにも職人然として、無駄のない棒さばき。渾身の感情を込めたり、華麗なバトン・テクニックでオケを誘導したりという事が全くないので、視覚的にはあまり面白い指揮とはいえない。それでもオケが柔らかくも美しい音色で生き生きと鳴っているし、生演奏でこれだけディティールを聴かせられるというのは、響きが透明な証拠だろう。 第3楽章では、ホルン奏者のトップが指揮者の横に出てきて、ソリストのように吹いた。国際マーラー協会による新版の校了報告を反映させた配置だ。それにしても、このホルンの音色の美しい事。背後のホルン・セクションとこだまのように響き合う箇所も効果的だった。ジンマンという人は、指揮台上のライヴ・パフォーマンスよりも事前にアイデアを仕掛ける方に秀でている様子。ただ、アダージェットは音楽への情緒的耽溺が淡白で、フィナーレもフィジカルな興奮には乏しい印象を受けた。そういうタイプの指揮者ではないのだろう。客席からは大きなブラヴォーが送られていたので、良い演奏だったのには違いない。好みの問題かも。 大曲が2曲なのでアンコールはなしだが、それでも2時間半くらいあるコンサートだった。夜の公演、特に平日の場合はあまり長い曲を入れるのも考えものかも。良い演奏を長く聴けるのは嬉しいのだけれど、この曲はいつもちょっと疲れてしまうし、帰宅が夜遅くなるもので 。 |