ヘルベルト・ブロムシュテット 指揮 

バンベルク交響楽団

ピョートル・アンデルシェフスキ(ピアノ)

曲目

モーツァルト/ピアノ協奏曲第17番

ブルックナー/交響曲第4番《ロマンティック》

2012年11月11日 西宮、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

 1年ぶりのオケ・コンサート。ブロムシュテットは05年京都でのゲヴァントハウス管、09年大阪でのチェコ・フィルとの来日公演に続く三度目の鑑賞で、バンベルク響は生で聴くのは初めて。同饗は最近あまり指揮者に恵まれない印象で、ディスクではケルテスやケンペの古い録音しか聴いた事がない。ドイツとはいっても、結成当初はボヘミアの楽員が大半だったそうだ(現在は大半がドイツ人)。座席は三階席の一番隅っこ。

 ここで大事件が起った。オケ、ピアニストと指揮者が登場し、タクトが振り下ろされた瞬間、キーンという甲高い機械音が響いてきたのだ。これは恐らく、補聴器の音である。他にもキョロキョロしだした人がいるので、私の耳鳴りではないらしい。しかし演奏はどんどん進んでゆく。悔しい事に、ものすごい名演のようである。まず、オケのソノリティが素晴らしい。モーツァルトはコントラバスのない編成であるにも関わらず、低音域の量感が豊かで、弦の響きに厚みがある。そして、木管群の音色、フレージングが得も言われぬほど美しい。

 しかし音楽に集中できない。位置は特定できないのだが、方向からいって二、三、四階席の中央辺りではないかと思う(一階もあり得る)。演奏を中止するほどの音量で舞台に届いているかどうか分からないが、かなり耳に付く高周波数の音で、一階席の観客が何人か席を立ち、係員に苦情を言った様子なので、会場全体に聴こえているようである。そもそも、当人が気付かないとしても、周囲数メートル四方の客はどこが音源なのか分かっている筈である。なぜ、誰も注意しないのか。

 第1楽章が終った時点で、舞台奥の扉からステージ・マネージャーらしき人が出て来て何かしようとしたが、マエストロは第2楽章の演奏を開始。異音が聴こえているとしても、舞台上の集中を優先する方針らしい。或いは、老齢になると人間の耳は一定以上の周波数を聴きとれなくなるそうだから、85歳のマエストロには聴こえていないのだろうか。さらに悔しい事に、モーツァルトのコンチェルトが又、革新的な手法を用いた曲で、ピアノのモノローグの後、沈黙を置いてオケと一気に盛り上がる箇所があったりする。集中して聴いたら、なかなか凄い演奏なのではないか。

 終楽章も、構わず演奏。こりゃ、ダメだ。異音の止む気配のないまま、最後まで行ってしまった。しかもアンコールまである。アンデルシェフスキがチョイスしたのは、これもアンコールとしては長い曲で、シューマンの幻想曲から。その間もずっと、機械音は鳴っていた。演奏は良かったので、ブロムシュテットもアンデルシェフスキも満足げな様子で、拍手も盛大に起った。

 休憩に入った所で、会場にアナウンス。異音で迷惑をかけた旨のお詫びと、ホールの設備に原因はないので、補聴器などを使用している人は今一度確認して欲しい旨、そして近くで音を聴いた人は係員に連絡して欲しいとの事。そりゃ、そうするしかないだろう。当人の周囲は何をしているのだろう。

 後半が始まる前に、ホールのゼネラル・マネージャーがマイクを持って登場。先ほどのアナウンスと内容は同じで、まずお詫びと、調査の結果、ホールの設備で電子音を作動させているものは皆無である事、一部の補聴器にこういう音を発する物がある事(私もこれは知っている)、今ここで鳴っていない事を確認してからオケの団員に入ってもらう、マエストロとも相談したが、氏は一度演奏を始めたら芸術表現上、中断して調査などはしない意向である事を発言。

 会場から、「でも、さっきは演奏が始まると同時に鳴り出しましたよ」との声、突然「ブ〜」という大きなブーイング(こういう人間は論外。会場もこれは無視していた)、他の客から「今ここで、皆さんに補聴器の電源を入れてもらったらどうですか」(会場から拍手)、この後静寂、音はせず。さらに「私は経験があるんですけど、録音機がハウリングでこういう音を出す事がありますよ。誰か録音されてるんじゃないですか?」(会場から失笑。モニターがないのにマイクだけでハウリングは起らない)。色々意見が出た所で、今は音が鳴っていないという事で、第二部を開始。

 幸い異音は鳴らなかったが、皮肉にも演奏はモーツァルトの方が良かった感じ。ブルックナーは、金管群がパワフルなのはいいが、音があまりにラウドに過ぎて、少し疲れた。私が後半、眠気に襲われたせいもあるのかもしれないが、ちょっと長く感じたかも。ブロムシュテットのリズム処理は鋭利で、特にブラスの付点音符にエッジを効かせるモダンな感性が持ち味だが、これがやや刺々しく聴こえるのも難点。

 それにしても85歳のブロムシュテット、さすがに05年来日時の棒の切れ味と激しさはなくなったが、大曲を暗譜で指揮する集中力と体力には頭が下がる。近年は欧米の名門オケにあちこち客演しているし、ベルリン・フィルのネット配信にも登場、昨年はウィーン・フィルに遅咲きのデビューを果たして今後はツアーも控えているという。オケからも聴衆からも尊敬されているようで、やはり終演後、彼だけ舞台に呼び戻されて熱狂的なブラヴォーを受けていた。

Home  Top