久々に芸文センター・オケの定期公演に足を運ぶ。チケットの発売日を失念していて完売になってしまったが、オークション・サイトでギリギリにゲット。千円のチケットを二倍強の値段で落札する事になったが、独唱と合唱を伴うこれだけの大規模な作品を、世界のマエストロ佐渡さんの指揮で聴けるのだから、二千円、いや三千円でも安いくらいだ。元々の値段が安すぎるのである。座席は三階バルコニーの中央辺り。 まずはオープニング・トーク。腹筋を毎日100回やっているという、曲とは関係ないめっちゃ普通の話から入る所がいい。テレビ番組のフリートークみたい。その後に、俳優の横田栄司による歌詞の朗読。ライティングを工夫して演劇風の演出になっており、しかもマイクなしの地声! 蜷川幸雄演出の舞台で何度も彼の芝居を見ていたので、彼が野太い迫力のある発声をする人である事は知っていたが、これだけ大きなホールで観客を圧倒させるのは凄い。しかも、パートごとに全く違う人格を描き分けていて、さすがは蜷川幸雄の千本ノックを受けてきた人だけある。引き出しが多い。 ステージ配置は、指揮台の前に二台のピアノを置き、横に座るソリストはバリトンだけ。テノールは歌う時だけ出てきて、児童合唱とソプラノは第3部から出演。合唱は着席できる段になっており、歌わない時は座っているという、概して演奏者に優しいステージング。 オケには、クリーヴランド管の首席テューバ杉山康人、元シカゴ響のパーカッション奏者テッド・アットカッツ、ジャーマン・ブラスのトランペット奏者ウヴェ・ケラー、元バイエルン放送響のチェロ奏者ウェン=シン・ヤン、元ケルン放送響のコントラバス河原泰則、東京フィルから第2ヴァイオリン戸上眞里、コントラバス黒木岩寿、都響のソロ首席ヴィオラ鈴木学、新日本フィルの首席トロンボーン箱山芳樹がゲスト参加。 この団体はいつも上手いと感じるけど、今回はややパワー不足というか、合唱に押されて響きが薄い感じ。和声感が弱いのと、ディティールが埋もれがちなので、曲の姿が伝わりにくい。当公演で初めてこの曲を聴く人も多いと思うので、残念である。ただ、大阪フィルのようにミスだらけという事がないので、技術面では優秀。この曲はテューバが剥き出しで唸る箇所が幾つかあるが、クリーヴランド管の杉山氏はさすがの存在感。 佐渡さんの指揮は、スタッカートで切るのが一般的なパッセージをレガート気味に処理している箇所が多く、独特の造形。熱血漢タイプではなく、リズムを扇情的に煽る所もないのが意外。独唱は、キュウちゃんがやや非力でオケに埋没気味。田村麻子はもの凄い声量だけど、自由に間を挟みすぎてテンポが遅くなる傾向。彌勒という人は、手を白鳥の形にしておどけながら出て来て、男声合唱に向かってガヤ芸人みたいにリアクションするなど、コミカルなパフォーマンス。裏声でカウンターテナーのような歌唱。 PACの定期演奏会も回を増してきたので、そろそろマニアックな作品も入れていいんじゃないかと思う。オルフの作品は、大体どれを聴いても変な曲で面白いので、今回の続編としてオルフ・シリーズもありではないかと。PACはひと味違う、《カルミナ・ブラーナ》だけじゃ終らないよ、という気概を見せて欲しい。もしくはプロコフィエフのカンタータ、《イワン雷帝》か《アレクサンドル・ネフスキー》を希望。 |