ロリン・マゼール 指揮 

ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

曲目

ワーグナー/歌劇《タンホイザー》序曲〜ヴェヌスベルクの音楽

ワーグナー/楽劇《トリスタンとイゾルデ》より前奏曲と愛の死

ブルックナー/交響曲第3番《ワーグナー》(ノーヴァク版第3稿)

2013年4月1日 大阪、フェスティバルホール

 3日前のフェニーチェ歌劇場に続き、新生フェスで開催される大阪国際フェスティヴァルの一環。なかなか豪華な顔ぶれである。マゼールの生演奏は、私はこれがまだ二度目で、前回はトスカニーニ交響楽団というユース・オケだったから、本格的にはこれが初。もう少し若い頃のマゼールを観ておかなかった事は悔やまれるが、それを言えば小澤征爾もだし、ジュリーニやクライバーのように観る機会を得ないまま他界してしまった人もいる。ハイティンクやコリン・デイヴィスのように、まだ観た事のない巨匠もいるし。

 座席は三階中央の後ろから三列め。思ったほど舞台が遠くないのが何より。80歳を超えたマゼールは、舞台に登場する足取りこそゆっくりだが、長時間の曲を立ったまま暗譜で振る姿は、正にスーパーおじいちゃんと呼ぶにふさわしい。以前のような激しい身振りはなくなったものの、音楽が盛り上がってくるとかなり没入して指揮していて、完全に老人の指揮という感じのプレヴィンとは内包エネルギーが違う感じ。

 ただし演奏はテンポが遅く、大掛かり。《タンホイザー》は特に遅いし、ヴェヌスベルクの音楽は曲自体がやや冗長。クラリネットの二重奏で、遠目におばちゃんと思しき二人の女性奏者が同じ角度で揺れながら吹いている様は微笑ましかった。オケは優秀だが、響きにやや雑味が入る(特に弦)で、編成が大きすぎるのではないかと思った。数えてみると、コントラバス8、チェロ10はいいとして、第2ヴァイオリンが12、第1ヴァイオリンとヴィオラで30は大規模すぎ。

 大ホールを意識して、大編成で雄大な音楽作りというコンセプトかもしれないが、弦のカンタービレなどは、繊細さに不足する感じ。《トリスタン》は熱っぽさも加わって良いが、細部はやや大味かも。最後に間を置かず、フライング気味にブラヴォーが入ったのは残念。《タンホイザー》もそうだが、ルバートする時にやや溜めを誇張した感じになるのはマゼール特有のクセで、好みを分ちそう。

 ブルックナーは、もう完全にマゼール流の演奏で、濃厚な表情付け。ヴァントやヨッフムの素朴な自然体が好きな人は悲鳴を上げるかも。デフォルメ気味のルバートに、たっぷりとした間合いや溜め、鋭角的なリズム(第3楽章に顕著)、部分的なアクセントの強調などなど。表現全体のスケールが拡大しているせいか、一時期のマゼールほどは人工的でなく、むしろ身体的クセという感じ。

 ティンパニの派手な強打など、大向こうを唸らせる演出も健在で、さながらベテランの名人芸といった所。ライヴで受けるタイプの演奏なので、激しいブラヴォーが浴びせられる。スタンディング・オベーションの人もちらほらあり。アンコールは何と、《ニュルンベルクのマイスタージンガー》序曲。何たるサービス精神、何というスタミナの持ち主か。少なくともプレヴィンには無理だろう(椅子に座ってるし)。これが又、華やか、壮大を絵に書いたような演奏で、又もやティンパニを強打。会場、大熱狂。

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