ヴェルディ/歌劇《リゴレット》

レオ・ヌッチ、マリア・アレハンドレス、ジョルジオ・ベッルージ

ケテワン・ケモクリーゼ、アレクサンドル・ツィムバリュク

グスターヴォ・ドゥダメル 指揮 

ミラノ・スカラ座管弦楽団、合唱団、バレエ団

演出:ジルベール・デフロ

2013年9月15日 東京文化会館

 東京で一泊して、スカラ座の二日目。この日は、東京公演の最終日にあたる。大阪でもドゥダメル指揮でアイーダの演奏会形式があるのだけれど、これは連休明けの平日のため行けないので、敢えて東京まで来てツーデイズ観るという、本末転倒なのか醍醐味なのかよく分からない結果になった。ドゥダメルの演奏は生演奏もCDも全く聴いた事がなく、これが初めて。安い座席なので3階の後ろの方だが、ピットの中も比較的よく見えて、舞台上は全てちゃんと見える。悪くない席だと思う。

 ドゥダメルの指揮は、予期していた通り情熱的なもの。テンポのメリハリが極端で、短いスパンのクレッシェンドを多用するが、速い部分がとにかく常軌を逸して速い。シノーポリを想起させる所もあって、嵐の場面でオケだけの山場に入るとテンポを一段上げるのもシノーポリと同じ。ただ、アゴーギクがオペラティックな興趣と結びつかないもどかしさもあり、リゴレットがマルッロ達に泣きつく所とか嵐の場面など、テンポが速すぎて歌手が付いてゆけない箇所も散見。オケもアインザッツがあちこち揃わなかったりして、ドゥダメルはオペラの経験がまだ浅いのかもしれない。

 この公演の見どころは、何と言ってもリゴレットの当たり役で「世界の至宝」と呼ばれるレオ・ヌッチ。彼のリゴレットが聴けるなんて、音楽ファンにとっては至福のひと時である。演技なのかどうか、歩き方がなんかちょこちょこヨタヨタしていて、道化師というより何だか素人っぽい感じがしてしまうけど、歌い始めれば深みのある強い声と豊かな表現力で客席を圧倒。オペラではあまりない事だが、アリア後の熱狂的な喝采によほど感激したのか、思わず胸に手を当てて声援に応えてしまうヌッチであった。

 これもオペラではあまりないが、第2幕のカーテンコールで最後の二重唱をアンコールした。何を考えているのか手拍子を取り始める人達がいて、良識ある音楽ファン達による「しぃ〜っ!」という咄嗟の意思表示で何とか収まった。ミュージカルじゃないんだから、手拍子なんかしてヌッチの歌がちゃんと聴こえるのだろうか。さらに各幕各場の最後で、オケのコーダが終る前に毎回拍手が入ってくるが、あまりに感激してフライングするケースは多々あるにしても、毎度毎度では気持ちが伝わらないし、タイミングも早すぎるように思う。しつこいようだが、ミュージカルじゃないんだから。

 他の歌手は若手ばかりだが、印象に残ったのはマントヴァ公爵を歌ったベッルージ。美声だし、上手い。ただ、山場になると間合いがたっぷりしてきてリズムが崩れる傾向あり。ジルダ役のアレハンドレスは押しが強く、往年の大歌手みたいに派手な歌唱。スコアにないカデンツァのハイトーンをこれでもかと付けていかにもプリ・マドンナという風情だが、個人的には違和感あり。ドゥダメルの機敏なスタイルとも乖離している。ワーグナーかR・シュトラウスの方が向いてるかも。

 マッダレーナを歌ったケモクリーゼも、ビブラートが強すぎて音程が聴き取りにくい。録音ではベテラン歌手がキャスティングされやすいスパラフチーレ、モンテローネ伯爵に若手のバス歌手を当てているのも好印象。実力もありそう。合唱は重くて、軽快さに乏しく、4月に演奏会形式で聴いたフェニーチェ歌劇場の合唱の方がよく統率されていたように思う。もっともそれは指揮者、ドゥダメルとミュンフンの実力の差かもしれない。第1幕で少しだけバレエも見られて良かった。

 演出のデフロはベルギーの人で、写実的なセットを組んで、歌手達とドラマを構築してゆく健全なもの。オペラの演出はこうでなくてはと思う。手前から奥に斜めにセットを組んでいるが、これが奥行きとスケール感を増して迫力があるし、上下方向の空間の使い方も演劇的。第1幕のバンダは弦楽合奏のみ舞台上に登場。第2幕は巨大なステンドグラスの向こうから夕日が射すイメージで、照明も美しい。カーテンコールではオケの楽員など大勢が舞台に上がり、「SAYONARA See You Again」のネオン看板を掲げて、総立ちの客席と舞台上が手を振り合う祝祭ムード。

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