パーヴォ・ヤルヴィ 指揮 

パリ管弦楽団

ジャン=フレデリック・ヌーブルジェ(ピアノ)

曲目

ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲

ラヴェル/左手のためのピアノ協奏曲

プロコフィエフ/交響曲第5番

2013年11月3日 西宮、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

 2年前の京都公演に続いて、二度目のヤルヴィ/パリ管。前回のツアーは「音楽の友」誌の年間ベスト・コンサートに選ばれたそうで、確かにあの凄いパフォーマンスを思えば、今回の空席の多さはちょっと信じられない。今年も前日に京都公演があり、シベリウスのカレリア組曲、リストの第2協奏曲、サン=サーンスのオルガン付きという興味をそそるプログラムだったが、妻が育児で同行できないため、遠方の公演は避けている。その点、徒歩圏内の西宮公演はありがたい。席は四階の二列目の一番右端。

 今回もパーヴォの棒さばきに圧倒される。ドビュッシーはパリ管で聴ける至福はあるものの、さほど個性が出るタイプの曲でもないので前菜程度。ラヴェルは三部構成の描写力が秀逸で、クライマックスの盛り上げ方が実に巧く、やはり北欧、バルト三国地域の指揮者であるヤンソンスやサロネンと共通した特質を感じさせる。オケもさすがで、行進曲のパートに入った所のソプラノ・クラリネットの乗り方なんて、他のオケではちょっと聴かれないような感じ。

 ピアノはライジング・スター、ヌーブルジェ。前回来日時のソリスト、ダヴィッド・フレイもそうだったが、ステージ・マナーが独特で挙動不審。わさわさと落ち着きがなく、登場するなり腕をぶんぶん振り回したり、ベテランのアーティストがまずやらないような動きをする。しかし演奏が始まると見事なもので、弾き出しこそもう少し間を取ってから入って欲しい感じだったが、左手でバリバリ弾きまくる。

 大体、尺が短い上に左手しか使わない(しかも弾くのが難しい)コンチェルトなんて、彼のような若手でなければまず断るであろうオファーだが、そんな曲を弾き切った彼に盛大なブラヴォーが飛んだ。アンコールは英雄ポロネーズで両手のパフォーマンスも披露するが、弾く前にオケ向かって何か話しかけたのが、やっぱり独特のステージマナーだった。

 後半はプロコフィエフ。生では初めて聴いた曲だが、物凄い演奏。そもそもこの曲、よほど優れた才能のある指揮者が振らないと、私などは最後まで集中して聴くのがしんどいが、パーヴォがその、優れた才能のある指揮者である事は明白。まずもって、全体の構成力と各部のニュアンスの付与が非凡。第1楽章のラストに凄まじい山場を持ってくるのは無謀とも言える造形(ここで拍手が起ってもおかしくなかった)で、この調子で行ったら最後まで保たないんじゃないかと思ったが、軽やかに第2楽章に突入。

 第2楽章はリズムの軽快さが出ないと野暮ったくなる曲で、パーヴォとパリ管のセンスの良さは図抜けているという他ない。オケの音色もプロコフィエフの書法と相性が良いようで、色彩感の豊かなパフォーマンスを展開。第3楽章はさすがのパーヴォ&パリ管でも冗長に陥りかけたが、フィナーレは桁外れの活力で再び客席を圧倒。とにかくテンポが速い。始まった途端、このテンポで大丈夫か?と不安になるが、パリ管のアンサンブルは終始崩れず、多様なダイナミクス変化に対応しつつ、パワーを維持しながらクライマックスへ突入。嵐のようなブラヴォーが浴びせられた。

 アンコールはビゼーの《子供の遊び》からギャロップと、《カルメン》の第1幕前奏曲。プロコフィエフの後で聴くと、ビゼーのオーケストレーションはやや鳴りっぷりが悪い印象だが、前者は楽器編成のせいかもしれない。後者は闘牛士のメロディが出て来る箇所で、これぞフランスのオケという弦のカンタービレが思わず嬉しくなる。それにしてもパーヴォ、恐るべき指揮者である。父のネーメもただならぬ才人だが、父子でこの天才っぷり、一体どういう家族なのだろう。

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