指揮者もオケも初めての生演奏。指揮者に至ってはCDでも聴いた事がなく、演奏に接する事自体が初めてである。オスロ・フィルは、ヤンソンス時代に躍進してその実力は知っているが、他のディスクといえばサロネンが振った《ペール・ギュント》くらいしか聴いた事がなく、一度生演奏に接してみたいと思っていたオーケストラ。 思い込みかもしれないが、北欧の人たちは佇まいがやはり洗練されていてクールという感じ。指揮のペトレンコもイケメンで細身、身のこなしがいちいちスタイリッシュで、しかもかなりのエンターティナーという印象。1曲目はニールセンの短い序曲だが、リズム感の良さが炸裂。ブラスの軽快なリズムの処理など、見事という他ない。しかもオケのソノリティが透明で、すこぶる美しいサウンド。凄い演奏だと思ったが、短すぎたのか特にブラヴォーはこず。 次はアリスちゃんのグリーグ。この人の演奏は前にも京響のコンサートで聴いたが、その時もグリーグだった。できればリストかベートーヴェン、ブラームス辺りを聴いてみたい感じがする。演奏前に椅子の横のレバーをくるくる回して高さを調節するが、相当に長いことくるくるして、コンマスも真似をしたりして会場から笑いがきた。 演奏は確かに見事だが、グリーグで表現云々をいうのはちょっと難しい。カデンツァではお得意のパッションを爆発させそうな瞬間もあるが、元々そこまで発展性のある楽譜でもないし。むしろアンコール曲で本領を発揮。リストのラ・カンパネッラ(前に聴いた時も同じ曲だった)だが、最後には白熱して、ジャズ・ピアニスト上原ひろみばりに全身で跳ね、フライング気味のブラヴォーを浴びる。 後半はショスタコーヴィチ。ペトレンコ氏、何といっても運動神経が抜群に秀でている。オスロ・フィルの響きが澄んでいて透明度が高い事もあるが、爽快なまでにすっきりとした肉体に、スポーティなほど軽いリズム感で疾走する音楽。この軽さは尋常ではないが、それでいて、音楽自体から深刻さを奪ったり、表現の密度が薄っぺらになる事はない。むしろ、非常に緻密に構成されているように思える。オケもうまい。 さすがに第3楽章である種の濃密さを求めたくなる瞬間もあるが、木管の弱音ソロなどデリカシーも満点。フィナーレはやはりスピーディなテンポで駆け抜けるが、終盤のクライマックスはぐっとテンポを落として迫力満点。アンサンブルの統率力も高く、常に聴き手の耳を惹き付ける表現で、そうではない指揮者も結構多いだけに、今後注目していかなくてはならない一人と感じた。 特に非凡だったのはやはりアンコール。まず、何度もカーテンコールを繰り返さず、客席に向かって茶目っ気たっぷりのオラオラ系仕草で拍手のクレッシェンドを要求した後、満足気にうなずいてさっとアンコールを開始する所、ちょっと小憎たらしいが場を把握している。実生活ではモテるに違いない。《二人でお茶を》を演奏したが、同じ作曲家の全く別の面を見せる選曲センスも卓抜な上、ジャジーなグリッサンドやポルタメントを強調し、即興的にテンポを揺らすデフォルメは、普通ならイヤらしくなってしまう所、オケが献身的に棒に付けてゆく事によって見事な一体感に変貌。 又もや客席にオラオラして2曲目のアンコールを始めると、今度はブラームスのハンガリー舞曲第6番。1番や5番じゃない所にこだわりが見える。これも、最後のトゥッティの前、全休止にユーモラスな仕草で間を挟んで客席から笑いを取り、そのままチャンチャンチャンと終了。オケも聴衆も人心把握して自分の空気に持っていってしまう、希代の人たらし、いやエンターティナーと見た。 |