近所で観られるという事と、大好きな《ドン・カルロ》という事で、2歳の子供を義母にみてもらい、妻と久しぶりのオペラ鑑賞。五千円の安い席なのに、二階バルコニーのそこそこ良いポジションで観られるのが何より。この数倍払っても、名古屋で観たメトロポリタン歌劇場2011年引越公演はひどい席でしか観られなかった(それでもルネ・パーペの声は目の前で歌っているように聴こえたけど)。 まず、オケのパートがやや弱腰。ホールのピットが狭く、小編成にならざるを得ない事もあるが、指揮もアクセントが弱い上にテンポが遅く、迫力に乏しい。まあ長丁場だし、歌手の声とのバランスでセーブしているのか、幕が進むと少し改善され、指揮の動きも大きくなってくる。ただ、この指揮者は旋律を流麗に歌わせる傾向が強い一方で、テンポを動かして音楽を煽ったり、鋭いアクセントを打ち込んだりという事が、ほとんどない。ティンパニなど、ほんの少し添える程度という感じ。曲が素晴らしいだけに、少々物足りなく感じるのが残念。 歌手はフィリッポ王、カルロ、エリザベッタが豊かな声で、聴き応えあり。ロドリーゴがやや金属質で細い声質なのと、宗教裁判官のイタリア人が、日本人歌手に混ざってもさほど声量のメリットを感じさせなかったのは意外。エボリ公女は、低音部の迫力が見事ながらヴィブラートがきつく、《ヴェールの歌》ではトリルの箇所が完全に埋もれてしまった感じ。表現も時代がかって大袈裟で、カーテンコールではこの日一番のブラヴォーが来ていたものの、私はあまり感心しなかった。合唱は好演。 演出は、セット美術こそシンプルだが、衣裳が本格的で豪華。さすがは本場イタリアのこだわりを見せる。背景にはスクリーン・プロジェクターを活用し、修道院の場面では骸骨寺のような背景、王の登場では王冠を被った巨大なドクロが現れるなど、人間の本質はしょせん骸骨というような、妙なテーマを強調。個人的には、歌手をもっと大きく動かした方が、躍動感と緊張感が高まるように思った。あと、最後の所で先王の背後から煙が立つ演出だが、シュ〜っという音が目立ち過ぎ。 ただ、やっぱり《ドン・カルロ》は作品が素晴らしいので、よほどひどい演出や演奏でない限り、それなりに見応えのある舞台になる。テンポが遅いためか、メリハリに乏しいためか、4幕版にしては長尺という印象だが、第3幕はロドリーゴの死以降の場面がばっさりカットされていた。字幕は分かりやすい現代的な日本語で好印象だが、意訳で大事なニュアンスが奪われていて残念な箇所も少しあり。 |