フュージョン界におけるサックス・プレイヤーとして、大御所の域に入ってきた感さえあるデヴィッド・サンボーン。彼は小児マヒのリハビリのために医者にすすめられてアルト・サックスを始めたそうですが、人間どんなきっかけからどうなるかなんてホントわからないものですね。 サンボーンの特徴といえば、個性的な音色が挙げられると思いますが、 “金属的” とか “ヒステリック” などと表現されることもあるサンボーンの出すあの音を、とにかくカッコよく感じたものです。初めての人でも一度聴いたら記憶に残って、またどこかで聴いてもサンボーンの音だとわかるんじゃないでしょうか。また、 “泣き” のサンボーンには定評があり、バラードや歌モノなんかでのソロは彼の真骨頂とも言えるのですが、あまりにもいろんなところでそういうことばかりが書かれ過ぎのような気もして、延々と吹きまくるサンボーンも好きな私としては、そういうサンボーンも素晴らしいんだということをアピールしたいし、もっともっと聴きたいと思っています。 私はその昔、ディープパープルなどのハードロックから、ジェフ・ベックなどのロックのインストものへと音楽の興味が移っていた頃、さらにソロやアドリブの比重が大きい音楽を求めるようになっていきました。そうすると方向としては必然的にジャズやフュージョンということになってくるわけなんですが、当時はフュージョンという言葉など知りませんし、ジャズなんかもうサッパリわかりません。CD屋に行ってジャズのコーナーの前に立っても試しにどれを手に取っていいのかさえわからないわけです。そんなとき、恐る恐る初めて買ってみた「Jazz Life」という雑誌にサンボーンのインタビュー記事が載っていました。随分前のことなのでどのような内容のことが書かれていたかは忘れてしまいましたが、私はそれを読んでサンボーンの言葉に何か感じるものがあったのです。後日CD店に行ったときにそのことを覚えていて、サンボーンの数あるCDの中からたまたま手にしたこのCDを買って帰ったわけです。 初めてこのアルバムを聴いたとき、「ボクが今まで探し求めてきた音楽はこれや!」と思ったのを覚えてます。ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれませんけど、そのときの正直な感想はそんな感じでした。まぁでも今から考えると、このときに他のフュージョン・アルバムを聴いていたとしても同じように思ったかも知れないとも思いますが、ジェフ・ベックしか聴いたことのない人間にとっては衝撃だったわけです。そのときに何もわからないながらにどう感じたのか思い出してみると、やはり細かい演奏の部分はわかりませんから、まず感じたのは全体的なサウンドだったでしょうか、楽器そのものの音がストレートに伝わってくるような感じのシンプルなサウンドがとても印象的でした。そしてもちろんサックス・ソロはメチャメチャカッコいいし、それからベースという楽器の影響がこんなにも大きく感じたのもこのときが初めてでした。まぁそれもこれも今になってこの錚々たるメンバーの名前を見渡せば当然だと思えます。 このアルバムでのおすすめは、まず2曲目の《Straight to the Heart》です。徐々に盛り上がっていくサンボーンのソロと他のメンバーの演奏が一体となって、バンド全体のグルーヴが高まっていくところは、思わずこっちも熱くなってしまいます。ヘッドフォンかカーステレオで大音量にして聴いたりしたら、鳥肌立つこと間違いナシです。個々の演奏のレベルの高さは言うまでもないんですけど、それにも増してバンド全体で段々と盛り上がっていくところの技術というか、そういった部分での変化の付け方はさすがです。 そして、一番の注目曲は3曲目の《Run for Cover》。2曲目と同じくマーカス・ミラーの作曲で、彼自身のライヴでもよく演奏されているこの曲は、とにかくサビの部分のベース・ラインがカッコ良すぎます。さらに今ではすっかりマーカスの代名詞になっているスラップ(チョッパー)奏法によるソロも盛り込まれていてベーシストもそうでない人も一聴の価値ありです。 このアルバムは1984年録音で、サンボーンのリーダー作では貴重なライヴ・アルバムです。ちなみにこのライヴの模様を収録したDVD『Love & Happiness』では、モノクロ映像ながらマーカス・ミラーの若々しい姿やスリムなハイラム・ブロックを見ることができます。また、何曲かはCDとは別のテイクが収録されているので、それが聴けるのも面白いので機会があればこちらも見てみてはいかがでしょうか。 私はこのCDを聴いてエラく感動したことから、ジャズ/フュージョンの世界に足を踏み入れることになったわけですから、個人的にこのCDにはちょっとした思い入れがありますし、実際よく聴きました。でもいろんな音楽を聴いていくうちによりジャジーな音楽に興味が湧いてきて、サンボーンをあまり聴かなかった時期があったのも事実です。しかし、最近になって聴いてみると「やっぱりサンボーンってカッコええなぁ」と思うのです。このアルバムにしても「これってサンボーンじゃなかったら成り立てへんよなぁ」と思うのです。そんな感じで改めてサンボーンの凄さに気付く今日この頃です。 |