中世イタリアの作家ボッカチオをモティーフに、当時のイタリアを代表する名監督4人が競作した、贅沢極まりないオムニバス映画。タイトルに70と入っていますが、製作は1962年です。これはどういう意図だったのでしょうね。一つ一つのエピソードが長く、全部観ると3時間15分もありますが、往年のイタリア映画のエッセンスを凝縮したような、実に楽しい作品です。特に私の気に入ったのは、最初の二つ。 第1話は、家族のアパートに同居している貧乏な新婚夫婦の日常をユーモラスに描いた、ただそれだけのエピソードですが、当時のイタリアの風俗が生き生きと描かれていて、今の私達の目にはひたすら斬新。例えば、若妻が務めるオフィスの光景と通勤の様子、宇宙船風の不思議なディスコ、異常なまでに人だらけの超巨大プール(中でも注目は、水族館みたいなガラス張りの水槽プール。魚の代わりに人間が泳いでます! それを人間が見てます!)、どれもこれも見た事のないような風景ばかりで、思わず目を見張りますよ。ポップな音楽もセンス良。 第2話は、巨匠フェリーニが描くコミカルなファンタジー。無邪気な天使が、お固いモラリストの博士にイタズラを仕掛けるコメディですが、冒頭のタイトルバックに小窓でインサートされる天使の笑顔と高らかな笑い声にびっくり。ものすごいセンスです。天使のイタズラとは、広場に設置された牛乳メーカーの巨大な美女の看板が、夜中に実体化して博士を追い回すというもの。看板のスピーカーが繰り返す宣伝用のマーチ(ニーノ・ロータ作曲!)も、笑えるくらいチープで可愛らしい。モンド/ラウンジ系の音楽ファンなら、これは聞き逃せない所でしょう。茶目っ気抜群のラストも小憎い演出で、私のような大の付くフェリーニ・ファンでなくとも、大いに楽しめる一編と言えるでしょう。 第3話は『ベニスに死す』の名匠ヴィスコンティが担当した、硬質なドラマ。映画ファンならご存知の通り、ヴィスコンティ家というのはイタリアでは知らぬ者のない由緒正しい家柄で、彼も本物の貴族です。作品でも主に貴族や上流階級の世界を描いて来た人ですが、このエピソードでもやはり、庶民(それも私のような異国の庶民)にはピンと来ないような生活のディティールが描かれていて、私にはちょっと、よく分かりません。登場する男女の関係が冷えきっている事は分かりますが、それだけではないような、どこか複雑な感じがするのも厄介な所。そう多くの作品は観てませんが、ヴィスコンティはよく分からない、というのが今の私の正直な感触です。 第4話は、ヴィットリオ・デ・シーカ監督にソフィア・ローレン主演という、名作『ひまわり』のコンビによるエピソード。祭りの人気娘と一晩明かす権利を、冴えない男がくじ引きで勝ち取るお話。別段難しい所はない作品ですが、観る側としては一体何を観ているのか、焦点がいまいち判然としないまま終わってしまう感じもあります。これもしかし、私にまだまだ修行が足りないという事かもしれません。デ・シーカ作品は『ひまわり』の他、随分昔に『靴みがき』と『自転車泥棒』を観た事がありますが、どれも私にはしっくり来ませんでした。今観るとまた違った印象を持つのかもしれませんね。 |