古代ギリシャの愛の神エロスをテーマに、国際色豊かな映画作家達が中編で参加したトリロジー。全体的にもの静かで、少々難解な作品が集められた、大人向きのオムニバス映画と言えます。 第1話は『恋する惑星』のウォン・カーウァイ作品。ただ一度だけ触れ合った高級ホステスのために、ひたすら美しいドレスを作り続ける若い仕立て屋の話。雰囲気的には、近年やっと公開された『2046』や、その内容と繋がる『花様年華』と近いスタティックな演出で、レトロなムードの中にも人物の内面に狂おしいまでの恋情が渦巻く、カーウァイらしいドラマとなっています。主演の二人は『2046』に引き続いての登場ですが、チャン・チェンの方は『2046』の出演場面がほんの僅かしかなかったので、彼の演技がここでたっぷりと見られて良かったです。それにしても、カーウァイ作品っていつも切ないですね。 第2話はアメリカ・インディペンデント系の雄、『トラフィック』のソダーバーグ監督篇。毎晩同じエロティックな夢を見る広告クリエイターと精神科医のやり取りを、モノクロとカラーを織り交ぜて描いた作品ですが、どうも知的遊戯が過ぎるというか、わざと難解に、意味ありげに作ってある感じがして私は苦手です。個性派俳優による二人芝居は見ものだった筈なのですが、このパートは大方の観客にもウケが良くなかったようで、某サイトの利用者レビューにも「カーウァイ最高! アントニオーニやっぱいいね、ソダーバーグわけわからん」と書いている人がいて吹き出してしまいました。個人的に、ソダーバーグのセンスはむしろ『オーシャンズ11』のようなメジャー作品の方にうまく生かされるように思います。 第3話は『情事』『太陽はひとりぼっち』など、一貫して“愛”を描き続けてきたイタリアの巨匠ミケランジェロ・アントニオーニ作品。正直な所、難解で分りにくい点においては先のソダーバーグ作品と五十歩百歩だと思うのですが、何というのでしょう、奥行きというのか、文化の厚みというのか、背後にある何かが、作為的難解さと一線を画しているのではないかと思います。要は、意味が分からなくても、充分鑑賞に耐えるという事でしょうか。内容は、結婚生活に行き詰まった夫婦がリゾート地で若い女性と出会い、変化を経験するというもの。フェリーニやタルコフスキー、アンゲロプロスなど、欧州のあらゆる名匠と仕事をしているトニーノ・グエッラが共同で脚本を執筆。彼が参加した脚本は大抵難解になりますね。 オムニバス全体を繋ぐのは、イタリアを代表するアーティスト、ロレンツォ・マットッティの絵画と、奇しくも過去のカーウァイ作品で印象的だったカエターノ・ヴェローゾの音楽。個人的にはウォン・カーウァイのパートが一押しの、ビターなオムニバス映画です。 |