“手塚眞の才気煥発、ユニーク極まりないホラー・オムニバス”

『妖怪天国』  (1986年)

 

 監督・脚本:手塚眞

 出演:伊武雅刀、網浜直子、石上三登志、速水典子、天本英世、アゴ勇、宮口二郎、他

第1話『河童 』  第2話『おでん』  第3話『へらへら』

 三話の短編にオープニング、エンディングのエピソードを付けたホラー・オムニバス。『星くず兄弟の伝説』『白痴』の手塚眞による単独監督作品です。劇場公開映画ではなくビデオ作品として発売されたものですが、Vシネマ全盛時代に先駆けた手塚眞らしい斬新な企画だったと記憶します。

 まず、ユニークなのが構成。旧ソ連宇宙飛行士による月面着陸の場面から始まるのにも驚かされますが、オープニング&エンディングも、城主の手討ちを逃れようとする松姫が怪談を語るという、まるで千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)を彷彿させるような構成となっています。全三話の怪談も正に才気煥発というか、手塚監督は各エピソードを全く異なるスタイルで撮影。またもや観る者の裏をかいてみせます。

 最初の『河童』は正統派怪奇映画の雰囲気。沼に住む河童と男女の情念の物語を巧みにからめて描く、いかにもおどろおどろしい短編です。ところが第2話でムード一変、おでんを祀る不思議な神社の話を、手塚眞はポップな音楽に乗せてモノクロ無声映画として演出。第3話の『へらへら』では再び正当派の時代劇に戻ったかと思いきや、ひねりの効いたコミカルなクライマックスがホラーらしいオチへ転換してゆく所、一筋縄では行きません。しかも、『妖怪天国』らしい本当のクライマックスはこの後、エンディング部分で大々的に展開するのです。

 当時、日本の特殊メイク界をリードする存在だった原口智生が手掛けた妖怪達は、本作の見どころの一つ。キャスティングもユニークで、監督の父親・手塚治虫や、水木しげる、楳図かずおといった漫画家達があちこちに出演しています。本作の後、『妖怪天国ゴーストヒーロー』という長編も同じ監督によって撮影されましたが、妖怪達が登場する以外に内容的な繋がりはなく、続編ではありませんでした。

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