文豪夏目漱石が、自分の見た夢を元に書き綴った不思議な小説「夢十夜」。私がこの作品を読んだのは、映画化されるという話が既に出ていた頃なので、それほど昔でもない筈なのですが、今回この映画をみて、「はて、こんな話、原作にあったっけ?」と思ってしまうほど、早くも記憶が曖昧であります。まあ、元々がシュールな原作なので、映画化の際に自由なアレンジも入れば雰囲気ががらっと変わる事もあるでしょうが、天野喜孝&河原真明コンビのSF風の一編なんて、あまりにも予想外でびっくりしてしまいました。しかも、この原稿を書くに当たって特に原作を読み返したりもしていないので、その辺りの事実関係はやはり曖昧なままなのです。すみません。 映画は、戸田恵梨香が演じるオープニングとエンディングで全十話がサンドイッチされていて、漱石自身の「この物語は百年後にその真実が理解されるだろう」という言葉がテーマになっています。短編集となると、どうしてもシュールで難解な作品が多く集まって、「なんじゃこりゃ?」と煙に巻かれる事も実際多いですが、こちらは原作が既にシュールなだけあって、どの監督も正にやりたい放題。山口雄大や松尾スズキなど、元々コミカルな作風で知られる人がより過激な表現に向かうのはまあ理解できるとして、実相寺昭雄や市川崑のベテラン勢、西川美和や山下敦弘など近年話題の若手監督の作品も、なべて難解でとっつきにくいのは、これで良かったのか、悪かったのか。 個人的に最も惹かれたのは、『呪怨』シリーズでハリウッド進出も果たした鬼才・清水崇篇。これは原作でもひときわ恐ろしく、強いインパクトを残すエピソードですが、監督自身は特にホラーっぽいからというのではなく、前々からこの話を映画化したいと思っていたそう。さすがに思い入れがあるだけあって、非常に濃密で見応えのある作品になっています。 |