カンヌ国際映画祭60周年を記念し、様々な国の名監督達が映画館をテーマに3分間の短編を持ち寄った、企画オムニバス映画。さすがはカンヌ、参加している監督の顔ぶれの豪華さは尋常ではありません。3分間ではもうドラマは成立せず、ちょっと長めのコマーシャルのようなスケッチ風のフィルムにならざるを得ない訳ですが、それでも監督の個性が如実に表れてくるのが興味深い所です。 特に、カンヌではオープニング式典のみで上映され、フランス版DVDには収録されなかったデヴィッド・リンチの『アブサーダ』はシュールにぶっ飛んだ異色篇で、そうか、こういうのもありなのか、と素直に驚かされました。ひと目で誰の作品か分かるのは、アキ・カウリスマキ篇。映像も独特ですが、リュミエール兄弟の『工場の出口』にロックンロールのBGMを付けたものを、これまた工員達が鑑賞するという入れ子状のユニークなアイデアです。 思いつくままに印象に残ったものを挙げてゆくと、アントニオーニの『夜』を媒介にジャンヌ・モローとマルチェロ・マストロヤンニをうまく再共演させたテオ・アンゲロプロス篇、トリュフォー作品から『ロッキー・ザ・ファイナル』まで、監督自身が映画にまつわる思い出を語るナンニ・モレッティ篇、こちらも自身の実話を語ったクロード・ルルーシュの感動篇などなど。 他にも個性的な作品は枚挙に暇がありません。ポップで幻想的なガス・ヴァン・サント篇、意表を衝くオチが小話風のロマン・ポランスキー篇、監督自身が出演してショッキングなパンチを食らわすラース・フォン・トリアーとデヴィッド・クローネンバーグ篇(後者はカンヌで激しいリアクションを巻き起こしました)、極端にセンシュアルなウォン・カーウァイ篇、色彩感覚とドラマ性が素晴らしいビレ・アウグスト篇、映画的魅力に溢れた美しいショットが連続するモノクロのチェン・カイコー篇、『スリーピー・ホロウ』の撮影監督エマニュエル・ルベツキーの映像美が印象的なイニャリトゥ篇などなど、映画ファンを狂喜させる三分間が目白押し。 |